1型糖尿病が治る? 自分の幹細胞から作った膵臓の細胞を移植→75日後インスリンなしの生活に 中国チームが発表:Innovative Tech
中国の南開大学などに所属する研究者らは、1型糖尿病の新たな治療法として、患者自身の細胞から作製した膵臓の細胞を移植する臨床研究の成果を示した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国の南開大学などに所属する研究者らが発表した論文「Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient」は、1型糖尿病の新たな治療法として、患者自身の細胞から作製した膵臓の細胞を移植する臨床研究の成果を示した研究報告である。
この研究は、患者の体細胞を化学物質で多能性幹細胞へと変換し、そこから膵臓のインスリンを作る細胞へと育て上げるという手法を用いている。
対象となった患者は25歳の女性で、11年にわたり1型糖尿病を患っていた。研究チームは、この患者の脂肪組織から採取した細胞を化学的に処理して多能性幹細胞を作製し、さらにそれを膵島様細胞へと分化させた。膵島は膵臓の中にあるインスリンを作る細胞。これらの細胞の安全性と有効性は、まず実験動物で確認できた。
2023年6月、研究チームは作製した膵島様細胞を患者の腹部の筋肉の膜(腹直筋鞘)の下に移植。この移植部位は、従来の肝臓への移植と比べて、移植後の経過観察が容易で、必要な場合は移植片を取り出すことも可能という利点がある。
移植の結果は極めて有望なものであった。移植から75日後、患者は注射によるインスリン投与から完全に離脱できた。血糖値の管理状態を示す指標として、正常範囲(70〜180 mg/dL)内に収まる時間の割合は、移植前の43%から4カ月後には96%以上に改善し、その後も98%以上の良好な状態を維持した。また、過去2〜3カ月の平均血糖値を反映するHbA1c値も正常範囲(約5%)まで低下した。
安全性についても、1年間の追跡期間中、MRI検査や血液検査で腫瘍形成の兆候は見られず、重篤な副作用も報告されなかった。移植された細胞は正常に機能し、血糖値の変動に応じてインスリンを適切に分泌していることが確認できた。
Source and Image Credits: Wang et al., Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient. 2024, Cell 187, 6152-6164
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