米セキュリティ研究者が“謎の失踪” 大学Webサイトから情報抹消、FBIも自宅捜索 中国の助成金が関係か:この頃、セキュリティ界隈で
米国の研究者が突如として姿を消した。大学のWebサイトからはプロフィールが抹消され、自宅は米連邦捜査局(FBI)の家宅捜索を受けたと伝えられている。その後、本人の無事は確認されたものの、事件は今も謎に包まれている。
米インディアナ大学の研究者が突如として姿を消した。大学のWebサイトからはプロフィールが抹消され、自宅は米連邦捜査局(FBI)の家宅捜索を受けたと伝えられている。その後、本人の無事は確認されたものの、事件は今も謎に包まれている。
報道によると、インディアナ大学の教授だったシャオフェン・ワンさんは20年以上にわたる暗号学やプライバシー、サイバーセキュリティ研究の実績で知られる。受賞論文も多数あり、マスコミの取材を受けることも多かった。米電気電子学会(IEEE)や米科学振興協会(AAAS)フェローなどの肩書も持つ。
ところが3月に入り、ワンさんの経歴紹介ページや連絡先などの情報がインディアナ大学のWebサイトから消えた。同時に、同学に勤務していた妻のニアンリ・マーさんの情報も消去された。同僚には何の説明もなかったという。
3月28日には米インディアナ州ブルーミントンとカーメルにある夫妻の自宅2カ所にFBIの家宅捜索が入った。FBIは地元紙の取材に対し、裁判所の許可を得て家宅捜索を行ったことを確認したという。家の前には覆面パトカーが何台も止まり、私服警官らが出入りしていたと同紙は伝えている。
インディアナ大学は3月上旬にワンさんを休職扱いとし、FBIの捜索が入った28日に解雇していたことが判明。大学は解雇の理由も、ワンさんに言及したページを大学のWebサイトから削除した理由も明らかにしていない。
4月に入ると弁護士が、ワン夫妻は無事だとする声明を発表した。夫妻は逮捕されておらず、現時点で罪に問われているわけでもないと弁護士は説明。「夫妻は捜査が完了して自分たちの汚名が晴れ、キャリアを再開することを心待ちにしている」とコメントしている。
中国の助成金が関係? 研究者たちからは抗議の声
今回の問題に、中国からの助成金が関係している可能性も分かった。
共同研究者が文書に記した内容として米Wiredが伝えたところによると、事の発端は2024年12月にさかのぼる。17〜18年の中国の助成金リストにワンさんの名が掲載されていることについて、大学側がワンさんに説明を求めていたといい、25年2月にはこの問題について調査を進めるとワンさんに通告したとされる。
3月上旬、ワンさんは大学に対し、シンガポールの大学からの招待を受け入れたことを伝えたという。これを受けて大学側が同氏の情報を大学のページから削除して、電子メールアドレスを無効にした。
ワンさんは米政府の助成を受けた研究に従事する一方、中国政府が出資するサイバーセキュリティ研究機関の研究者と共同研究を行うこともあったとされる。ただ、論文では中国の政府機関からの助成についても明記しており、米中の共同研究は珍しいことではないという。
米国の研究者からは、インディアナ大学がワンさんを解雇した経緯を巡って「明らかに普通ではない」などの声が上がっている。インディアナ大学の教授会も、この解雇は適正手続きに従っていないとして抗議する声明を発表した。
ワンさんがFBIの捜索を受けた理由は今も明らかになっていない。トランプ政権が中国に強硬姿勢を示し、大学に対する圧力も強める中で、在米の中国人や中国系米国人研究者は不安を募らせているという。
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