アニメ「Ave Mujica」制作の舞台裏――監督と制作会社代表に聞く、“圧倒的な内製化”がもたらしたもの:まつもとあつしの「アニメノミライ」(6/6 ページ)
ガールズバンドをテーマとしたアニメがここ数年ブームとなっている。2025年3月にエンディングを迎えたTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」もその1つだが、数あるガールズバンドアニメの中でも、際立った存在感を放っている。本作はどのようにして生まれたのか? IT色の強い制作現場構築の過程など、監督・制作会社代表に詳しく話を聞いた。
革新の連続体としてのアニメ制作
――最後にこれからのサンジゲンの方向性や、クライマックスを迎えるTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」の視聴者やバンドリーマーの皆さんへのメッセージをお願いします
松浦:人気が出てしまって、この先、制作スケジュールがさらに埋まっていくなと(笑)。これは僕もまだまだ作り続けないといけない。もちろんそれは楽しいし、嬉しいことなんですが。「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」の続編シリーズの制作も決まっていますし、全く新しいものだってあり得るかなと思っていますし、もうその準備ははじめています。
僕たちは新作ごとにクリアすべきテーマを決めています。「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」のときは「CG臭さ無くそう!」だったわけですが、常に「これまでになかったやり方でアニメを作りたい」と思ってます。これからも今日お話ししたような改善は続けて行くことになるでしょう。
実はモデリングの工程は今後減っていく方向になっていくと思っていて、既にアセットとして購入できるものも増えましたし、サンジゲンにも1万5000を超えるライブラリがあるので、ゼロから作るということはほとんどありません。もっとも作業が大きくなるのはキャラクターの髪の毛の表現で、その次にディティールの多い洋服だったりするのですが、顔についてはすごく早く完成させられるようになっています。
AIの進化もありますので、今後モデラーの需要は減っていくと思ってますが、それはネガティブなことではなくて、ツールやライブラリはどんどん使った方が良いし、そこにアレンジを加えられる人の需要はむしろ逆に高まっていくと思います。
そういうビジョンもあって、サンジゲンでは次の「GUILTY GEAR STRIVE: DUAL RULERS」からは、制作ツールを3DSMaxからblenderに完全移行しています。オープンソースのツールを用いることによって、プラグインを自社で開発するなどより新しい作り方ができると考えているからです。ここに3DCGアニメの未来があるなと考えています。
僕がサンジゲンを創業した2006年には、アニメ制作はスタジオシステムが主流になっていて、作品毎にスタッフが入れ替わるのが当たり前でしたが、サンジゲンはそれに逆行するように内製化とそれを支えるインフラ整備を進めてきました。それが一つ実を結んだのが、本作だと捉えていますが、これからも変革は進めていきたいですね。
柿本:ずっと会社に興味を持ち続けている社長って偉いなと思います(笑)。作品は終わりがありますが、会社は終わりがないですから。松浦さんは「もっとこうしたい」というエネルギーがすごいし、そこにちゃんとコストをかけてくれるのが有り難いです。効率化の結果として、クオリティーもどんどん上がってきていますしね。
アニメは、デジタル化が始まったときにその波についていけないクリエイターと、なんとか乗りこなした人とで差がついてしまって、しかも変化の間隔はどんどん短くなり、3DCGの次はAIという具合になっています。とにかくあがき続けていかないと、沈んでいってしまう。ですので、作り方も日々変わっていく方が正しいと思っています。アニメ業界全体に言えることですが、同じやり方では作れるものが減っていきますから。
バンドリ!もアニメ「2nd Season」「3rd Season」、劇場版とアップデートを重ねて、今回の「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」はいわば大型アップデート、車でいえばフルモデルチェンジにあたるような作品です。もちろん「前のモデルの方が良かった」という人もいると思うので、そちらも引き続き楽しめるようにコンテンツは続きますので、シリーズを引き続き楽しんでいってもらえたらと思っています。
――作品だけでなく、アニメ制作の在り方としてもフルモデルチェンジ=革新だったなと今日のお話を通じてよく分かりました。「新型車」には驚いたファンも多かったと思いますが、私も含め多くの人がその乗り心地を楽しんだはずです。今日はお忙しい中、ありがとうございました
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
日本の“お株”が奪われる?――躍進する「中国産アニメ」のいま 国内勢はどう立ち向かうべきか
中国産アニメの存在感が高まっている。象徴的な出来事としては、2025年4月改編の「日アサ」新番組として、中国配信大手bilibiliとアニプレックスがタッグを組んだ「TO BE HERO X」が予定されていることだろう。現在「ワンピース」が放送されているフジテレビの同放送枠に、中国アニメが収まるというのは業界内でも一定のインパクトをもって受け止められている。
「想星のアクエリオン」のすべて キャラデザ決定の舞台裏から特殊な制作手法まで、糸曽監督にインタビュー
約10年の沈黙を破り、待望のアクエリオンシリーズ最新作が1月9日から放送・配信される。最新作「想星のアクエリオン Myth of Emotions」では、従来のイメージを覆すデフォルメキャラが採用され、SNSで大きな話題を呼んでいる。この大胆なチャレンジに込められた意図や、革新的な制作手法、そして作品の魅力について、監督を務める糸曽賢志氏に迫る。
「負けヒロインが多すぎる!」と豊橋市の“超絶コラボ”、どう実現したのか? 仕掛け人に聞く【前編】
2024年夏アニメの話題作となった「負けヒロインが多すぎる!」(略称:マケイン)は、愛知県豊橋市を中心とした地域を舞台とする青春ラブコメだ。この豊橋がまさに「地域を挙げて」マケインコラボで盛り上がっている。自治体、地域コミュニティー、そして鉄道会社によるコンテンツツーリズム、地域振興策が積極的に展開できた理由を、仕掛け人たちに聞いた。
マケイン×豊橋市 “超絶コラボ”実現の舞台裏 作品と地元をつないだキーパーソンたちに聞く【後編】
「負けヒロインが多すぎる!」(略称:マケイン)とのコラボで盛り上がる愛知県豊橋市。放送前からの熱量はどこから生まれたのか、前編につづき、後編はとよはしフィルムコミッション事務局長の藤沢英樹氏、東海旅客鉄道(JR東海)営業本部 需要創出グループ副長の福井一貴氏にインタビューした。
ソニーが「アニメ制作ソフト」をイチから開発する理由――関係者に聞く、課題と解決の先にある“可能性”
ソニーグループが2024年5月の経営方針説明会で発表したアニメ制作ソフト「AnimeCanvas」に注目が集まっている。「アニメは世界に通用する」と吉田CEOは述べたが、なぜソニーが手掛けることになったのか、業界をとりまく課題と、その解決策について聞いた。
