1回の投与でコレステロールを長期間下げる新薬、米製薬企業が開発中 臨床試験の結果発表:Innovative Tech
米国の製薬企業Verve Therapeuticsは、遺伝子編集技術を用いた塩基編集薬「VERVE-102」の初期臨床試験結果を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米国の製薬企業Verve Therapeuticsは、遺伝子編集技術を用いた塩基編集薬「VERVE-102」の初期臨床試験結果を発表した。
悪玉コレステロール(LDL-C)を低下させる既存の治療法があるにもかかわらず、動脈硬化性心血管疾患は依然として世界中で最も多い死因の一つである。
今回Verve Therapeuticsが提案する治療法は、従来の毎日の服薬や定期的な注射とは異なり、たった1回の投与で長期間にわたって悪玉コレステロールを低下させることを目指している。
VERVE-102は遺伝子編集の一種である塩基編集を用いており、アデニン塩基編集薬とガイドRNA(gRNA)によって構成され、肝臓のPCSK9遺伝子を標的としている。この遺伝子は悪玉コレステロールの血中濃度調節に重要な役割を果たしている。治療薬は脂質ナノ粒子(LNP)に包まれ、2〜4時間かけて静脈内に単回投与される。
今回の臨床試験はヘテロ接合型家族性高コレステロール血症(HeFH)や早発性冠動脈疾患(CAD)の患者14人を対象に実施。これらの患者は血中の悪玉コレステロールの減少が必要な集団である。
参加者は3つの用量グループ(0.3mg/kg、0.45mg/kg、0.6mg/kg)に分けられ、結果は全ての用量グループで、用量依存的なLDL-Cの減少を示した。特に最高用量(0.6mg/kg)の患者グループでは平均53%のLDL-C減少が見られ、最大で69%も低下した例があった。
米ハーバード医科大学のユージン・ブラウンワルド教授は「これらのデータは安全性と有効性の両面で有望であり、1回の投与でLDL-Cの生涯管理が可能な心血管疾患治療の新時代を示唆している」とコメントしている。
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