ブラックホールが「宇宙に空いた穴」「何でも吸い込む」は誤解 意外と知らない“5つの真実”(3/3 ページ)
「ブラックホール」という単語を知らないという人はほとんどいないでしょう。それほどまでにブラックホールの知名度は高いですが、その分だけ生じる誤解もたくさんあります。今回はその中でも代表的なものを紹介します。
誤解4:「ブラックホールの表面をまたぐとそれが分かる」の真実
ブラックホールは一応は宇宙に存在する天体として扱われるため、何らかの表面を持つ黒い天体をイメージするかもしれません。しかし誤解1で説明した通り、実際のところ、ブラックホールは何らかの天体というよりも、時空の特別な領域であると考えた方が正確です。
また誤解3で説明した通り、大きなブラックホールならば、かなり近くまで寄ることができます。しかし近くに行っても、そこには漆黒の膜や霧がある訳ではありません。ブラックホールに入る瞬間、何の抵抗も振動も感じず、しばらくは入ったことすら気付かないでしょう。しかし入った瞬間から、決して後戻りできない特異点への一方通行しか許されなくなります。
もしもあなたがブラックホール観光ツアーに参加するならば、おそらく旅行会社か観光地が設置するであろう「立入禁止: この先ブラックホール」という立札や柵を無視しない方が賢明です。強大な重力によって視界が大きくゆがむため、境界は見えにくいかもしれませんが。
誤解5:「加速器はブラックホールを生み出し、地球を滅ぼす」の真実
加速器はブラックホールを生み出し、地球を滅ぼす──これはCERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)建設や運用をする際に巻き起こった反対運動でささやかれたうわさです。一部のSF作品でも引用されていることから、聞いたことがある人もいるかもしれません。しかし今この瞬間地球が無事である以上、このうわさは否定できます。
そもそもこの話が巻き起こったのは、LHCが今までになく高エネルギーの粒子衝突実験を行えるためであること、そして一部の理論では、非常に短い距離では空間次元が4つ以上あるのではないかとする「余剰次元」の考えがあるからです。もし、余剰次元が本当に存在し、理論的な予測より少しだけ長い場合には、確かにLHCでも小さなブラックホールを生み出す可能性はゼロではありません。
しかしその可能性は、相当な希望的観測を伴っています。実際には余剰次元があるかどうかは不明であり、仮にあったとしてもLHCでブラックホールを生み出す条件が整うとは考えられていませんでした。何より、LHCでブラックホールが生み出せるならば、自然界はもっとブラックホールにあふれているでしょう。
なぜなら、地球大気が宇宙と接する場では、宇宙線と大気分子との衝突により、LHCより何桁も高エネルギーな“粒子衝突実験”が、地球全体という広大な場で、46億年間も続けられているからです。LHCの実験が地球を滅ぼすならば、なぜ地球は今まで無事なのかという疑問に答えなければなりません。
ではもし万が一、そのような小さなブラックホールが生じたらどうなるのでしょうか? その場合も、非常に小さなブラックホールはホーキング放射によってあっという間に消滅してしまうと考えられています。仮に理論が間違っていてホーキング放射が起きないとしても、高い運動量を持ったブラックホールは地球の重力を振り切って、宇宙のどこかへと消えてしまいます。
万障を排して、地球の重力を振り切らずに地球にとどまったとしても、原子よりはるかに小さなブラックホールはほとんど何も吸い込めず、地球の中をぐるぐる回り続けます。地球の中心部に落ち着くころには、太陽が寿命を迎え、地球は太陽に飲み込まれているか、そうでなくても火炙りにされているでしょう。
参考文献
NASA Science Editorial Team. (Aug 13, 2019) “Shedding Light on Black Holes”. NASA
Sara Rigby. (Mar 30, 2021) “7 black hole "facts" that aren't true”. BBC Science Focus.
Amanda Bauer & Christopher A. Onken. “Black hole truths, myths and mysteries”. Australian Academy of Science.
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