「左巻き vs. 右巻き」──猫の寝方はどちらが多い? 400本以上のYouTube動画を分析:Innovative Tech
イタリアのUniversity of Bari Aldo MoroやドイツのRuhr-University Bochumなどに所属する研究者らは、家猫の睡眠姿勢には興味深い偏りが存在することを明らかにした研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
イタリアのUniversity of Bari Aldo MoroやドイツのRuhr-University Bochumなどに所属する研究者らが発表した論文「Lateralized sleeping positions in domestic cats」は、家猫の睡眠姿勢には興味深い偏りが存在することを明らかにした研究報告だ。
猫や犬などは、餌を扱う際に好んで使う“利き足”がある。人間にも利き手があるように、このような脳と行動の左右非対称性は、多くの動物が持っており、その理由には脳の処理速度や運動効率の向上などがあると考えられている。これらの研究の一環として研究チームは今回、家猫の寝方に注目した。
家猫は寝るとき、右巻きと左巻きのどちらが多いのか。研究チームは、猫の睡眠姿勢における左右の偏りを調査するため、YouTube上の動画を用いた大規模な観察研究を実施した。実験の対象となる動画は、動画内に単独の猫が映っており、その睡眠姿勢が明確に観察できることを必要条件とした。
また、猫は横向きに寝ている状態で、最低10秒間以上の中断されない睡眠が記録されていることを求めた他、頭部から後肢まで全身が完全に視認できる動画のみを分析対象にした。最終的には408本の動画を分析対象として選んだ。
分析の結果、統計的に極めて有意な左側への偏りを確認できた。具体的には、266匹(全体の65.1%)の猫が左向きの睡眠姿勢を示し、142匹(34.8%)が右向きの姿勢を示した。この結果は、平均して約3分の2の猫が左側を下にして眠ることを好むことを明確に示している。
家猫は捕食者であると同時に、コヨーテなどの大型動物にとっては獲物でもある。1日平均12〜16時間眠る猫は、生涯の約60〜65%を無防備な状態で過ごすことになる。そのため、高い場所で休むことを好み、捕食者の接近を視覚的に察知しやすくすると同時に、自身の姿を隠すという防御戦略をとっている。
研究チームは、左側を下にする睡眠姿勢が、この防御戦略をさらに強化する可能性を指摘している。哺乳類の右脳半球は脅威の処理、空間的注意、恐怖反応の処理において優位性を持つ。左側を下にして眠ることで、目覚めた際に左視野を通じて下方や同じ高さから接近する物体を素早く捉え、右脳半球での迅速な処理ができる可能性に言及している。
Source and Image Credits: Sevim Isparta, Sebastian Ocklenburg, Marcello Siniscalchi, Charlotte Goursot, Catherine L. Ryan, Tracy A. Doucette, Patrick R. Reinhardt, Reghan Gosse, Ozge Şebnem Cıldır, Serenella d’Ingeo, Nadja Freund, Onur Gunturkun, and Yasemin Salgirli Demirbas. Lateralized sleeping positions in domestic cats
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
三毛猫の毛色はどう決まる? 九州大などが遺伝子を特定 「メスばかり」の謎、核心に近づく
三毛猫やサビ猫の毛色を決めるとされてきた「オレンジ遺伝子」が、X染色体上のARHGAP36であることが判明。約5000塩基の欠失が関与していた。オレンジ遺伝子の実体は長年不明だった。
犬猫を飼うと“年収1300万円”と同じくらいの生活満足度 「結婚と同等の価値」 英国チームが調査
英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなどに所属する研究者らは、ペットが人間の生活満足度に与える影響を定量的に分析した研究報告を発表した。
ネコ vs. 人間の赤ちゃん、賢いのはどっち? 言語の学習速度を比較→猫の方が速い可能性 麻布大学が発表
麻布大学に所属する研究者らは、猫が人間の言葉を予想以上に早く学習する可能性を示す研究報告を発表した。
ネコよ、なぜ壁を引っかく──1200匹以上を対象に調査 カギを握るのは“家庭内の子供”の存在?
トルコのアンカラ大学やポルトガルのEgas Moniz School of Health and Scienceなどの研究者らは、家庭で飼育される猫の望ましくない引っかき行動に関する研究報告を発表した。
「家猫」は脅威の“侵略動物”か さまざまな生物を絶滅に追い込んだ? 「2000種以上を食べてきた」
米オーバーン大学などに所属する国際的な研究チームは、家猫(Felis catus)が生態系に及ぼす影響について大規模に調査した研究報告を発表した。


