「社内で理解されない」――新規事業担当者がぶつかる壁、乗り越えるヒントは“外部ネットワーク”にあり:もう迷わない、新規事業のススメ(2/2 ページ)
大企業で新規事業を担うイントレプレナーの多くが孤立無援の状況で奮闘しているものの、既存事業の成功体験や複雑な意思決定プロセス、限られた社内リソースといった構造的課題により、革新的なアイデアが芽を摘まれがちだ。この困難を打破する鍵となるのが、企業や業界を超えたイントレプレナー同士のネットワーク形成である。
成功事例に学ぶコミュニティの力
イントレプレナー同士のネットワークがもたらす価値は、スタートアップエコシステムにおいても重要性が認識されており、世界的に成功を収めている事例も存在する。その一つが、シリコンバレーの著名なスタートアップアクセラレーターである米Y Combinator(YC)が主催するアルムナイコミュニティ「Bookface」だ。
Bookfaceは、YCを卒業した起業家(アルムナイ)が互いに繋がり、知識を共有し、支援し合うためのプライベートなオンラインプラットフォームである。Facebook、Quora、LinkedInを組み合わせたようなプラットフォームで、各起業家がプロフィールを持ち、専門分野をタグ付けできる点が特徴だ。
Bookfaceは、YCのアルムナイにとって、スタートアップの成長を加速させ、困難な局面を乗り越えるための強力なツールとなっている。YCが創業当初から重視している「助け合いの文化」を象徴するものであり、アルムナイは、直面する課題に対して、YCのパートナーだけでなく、数千人もの分野の専門家から助けを得られることを知っている。
国内でも、同じくベンチャーキャピタルがアクセラレータープログラムのアルムナイ向けイベントを定期的に開催し、起業家コミュニティの形成に力を入れている。ユニコーンへと成長する起業家を相互に高め合う場を提供することを目指している。
弊社・アドライトでも、起業家やイントレプレナー同士の繋がりを求める声が多数あったことから、新たな取り組みとして「Leaper's Night」という大企業のイントレプレナーが企業や業界を超えて繋がるクローズドなイベントを開催している。一般的なオープンイノベーションイベントとは異なり、同規模企業の担当者が非競争領域でオープンな対話を行える場として設計した。アドライトでは長らく新規事業支援を手掛けているが、大企業では新しい事業の芽が社内の調整やリスク回避により潰れがちで、担当者が孤立してしまうという課題を発見したことが、この取り組みにつながっている。
実際に、Leaper's Nightの参加者からは、「イントレプレナー同士が繋がることで、社内で抱える具体的な課題を共有し、互いにノウハウを共有することで解決に直結した」や「異なる企業の事例や知見に触れることで、自社の事業アイデアを具体化させ、新たなビジネスパートナーを発掘する機会が生まれた」などの声が挙がっている。この取り組みにおいて、何よりも重要なのは、同じ志を持つ仲間との出会いを通じて、彼らのモチベーションが維持され、次なる挑戦への活力となることだ。孤立から解放され、自信を持って事業推進できる環境がイントレプレナーには必要と感じる。
どちらの例も、同じような挑戦をしている者同士が「利害を超えた純粋な繋がり」を築くことの価値を示している。大企業に属するイントレプレナーが直面する固有の課題に対し、こうしたコミュニティがどのように具体的な解決策を提供し、イノベーションを加速させていくかがカギとなる。
利害を超えた「純粋な繋がり」が新規事業を加速させる
本稿では、大企業における新規事業創出の困難な現状と、そこに奮闘するイントレプレナーたちの孤独な戦いを浮き彫りにしてきた。そして、この構造的な課題を乗り越えるための一つの強力な方策として、外部ネットワーク、特に「イントレプレナー同士の横の繋がり」の重要性を強調してきた。
従来のオープンイノベーションが、スタートアップと大企業の連携に焦点が当てられ、時に「事業提携」や「投資」といった利害関係が前提となりがちであったのに対し、イントレプレナー同士のネットワークは、それとは一線を画す価値を持つ。Leaper's Nightの事例が示すように、異なる企業に属しながらも同じ「新規事業創出」というミッションを背負う者たちが、非競争領域で腹を割って対話できる場は極めて貴重である。
このような「利害関係のない純粋な繋がり」から生まれる価値は計り知れない。自社内では共有しにくい悩みや葛藤の吐露、失敗談からの学び、そして共感による精神的な支えは、イントレプレナーの孤立感を解消し、持続的なモチベーションを維持する上で不可欠な要素となる。また、業界や企業の壁を越えた実践的な知見の交換は、個々の事業アイデアの具体化を促進し、社内では得られない客観的な視点を提供することで、事業の成功確率を高める。
イントレプレナー同士の純粋な繋がりが深まることで、彼らは「孤独な戦士」ではなく、「志を同じくする仲間」としての連帯感を得る。この連帯感こそが、複雑な社内調整やリスクへの躊躇、既存事業からの反発といった大企業特有の障壁を乗り越えるための原動力となるのである。
大企業が持続的な成長を実現し、変化の激しい時代を生き抜くためには、自社の殻に閉じこもることなく、外部、特に同じ境遇のイントレプレナーたちと手を取り合うことが不可欠である。利害を超えた純粋な繋がりが、アイデアを実行に移す勇気を与え、新たな価値創造を加速させる鍵となる。次世代の新規事業は、この「純粋な繋がり」の力によって、大企業の中から次々と生まれてくることだろう。
著者:株式会社アドライト(企業情報)
アドライトでは、オープンイノベーションによる新規事業創出や社内ベンチャー制度構築、イノベーター人材育成等、事業化の知見や国内外ベンチャーのネットワークを生かした事業創造支援を展開。事業会社だけでなく、国の行政機関や主要自治体とも連携し、未来へと続く事業を共創している。直近では、脱炭素・GX(グリーントランスフォーメーション)・クライメートテック領域に注力し、同領域に関心のある事業会社や地方自治体との共同プロジェクトを多数進めている。
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