新しい老眼鏡で視界がシャープになった話 AIで“瞳孔の変化”をレンズ設計に取り入れるアプローチとは?:分かりにくいけれど面白いモノたち(2/5 ページ)
「バリラックス・フィジオ・エクステンシー」は、瞳孔の動的データとAIに基づき設計された新しい累進度数レンズだ。明るさによって瞳孔の大きさが変化することと、メガネの見え方にどういう関係があるのか? 実際に使って確かめた。
井上さんが続ける。「そうやって、汎用性がありそうな瞬間を切り取らざるを得なかったんですが、今回の『フィジオ・エクステンシー』では、その無限にある条件をAIに計算させるということをやっているんです。ほとんど無限に条件と組み合わせがあるようなものを計算するのは、AIの得意技ですから」。
つまり、瞳孔がどういう条件の時にどういうふうに開くのか、どういうふうに縮瞳(しゅくどう)するのかという条件出しにAIを使っているということなのだろう。
「そこで出てきた条件を基に、それぞれの人の年齢に合わせて、度数や度数の分布などに反映させます。年齢を重ねると瞳孔の縮瞳、散瞳のスピードが変わってくるので、私たちは、この年齢の情報を老眼の度数で判断します。これぐらいの老眼度数ということは、つまりこれぐらいの年齢だよねっていう、おおよその予測がつきます。年を重ねている方の方が瞳孔が小さくなりがちなので、その条件を元に、その年齢の方の瞳孔の変化がどういうものかというのをAIに計算させるわけです」と井上さん。
もちろん、これはバリラックスが以前から蓄えている膨大なユーザーからのフィードバックやアンケート調査によって持っているビッグデータが背景にあるからこそ可能になる計算だろう。逆にいえば、そのデータがあるからこそ、こういうレンズが開発できるということでもある。井上さんの解説は続く。
「その時に、仮に想定していたよりも瞳孔が小さかった場合には、レンズ上で使う面積も小さくなります。ピンポイントでその場所を通して見ているということになるわけです。そのレンズの場所が分かれば、その場所で対象を見る場合の距離もだいたい分かります。瞳がまっすぐなら遠くといった、どれぐらいの角度で目が動けば、どれぐらいの距離を見ているっていうのが、これまでのデータから分かっています」。
瞳孔の散瞳縮瞳のパターンが分かっていて、老眼の度数が分かれば、瞳孔の大きさの変化と、その時に何を見るか、どの距離のものを見ているかが、大体決まってくる。だから、そこに合わせて、累進度数レンズの度数や度数分布を設計できるということだ。なるほど、目がオート・フォーカスやオートAEの機能だけでなく、瞳孔の変化で被写界深度のコントロールもしている。その調整機能に合わせて、度数や分布を細かく設定すれば、それは見え方はシャープになるだろう。また、それは同時に、暗いところ、つまり瞳孔が開いた状態でも、コントラストを上げる効果にもつながるのではないか。
実際、私が「フィジオ・エクステンシー」を使っていて、一番感じるのは、見え方のシャープさとコントラストの高さなのだ。向かい合って喋っている相手の髪の毛の筋が一本一本とてもくっきりと見える。
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