「1400年前のイングランドに西アフリカ系の人がいた」──若者2人の遺骨、古代DNA分析で明らかに:Innovative Tech
英ランカシャー大学やドイツのMax Planck Institute for Evolutionary Anthropologyなどに所属する研究者らは、7世紀のイングランド南部で埋葬された2人の個体が、サハラ以南の西アフリカ系祖先を持つことを明らかにした研究報告を発表した。
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このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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英ランカシャー大学やドイツのMax Planck Institute for Evolutionary Anthropologyなどに所属する研究者らが発表した論文「West African ancestry in seventh-century England: two individuals from Kent and Dorset」は、7世紀(約1300〜1400年前)のイングランド南部で埋葬された2人の個体が、サハラ以南の西アフリカ系祖先を持つことを明らかにした研究報告だ。
英ケント州アップダウンの墓地で見つかった11〜13歳の少女と、英ドーセット州ワース・マトラバーズで見つかった17〜25歳の若い男性は、いずれも古代DNA分析により、20〜40%ほどの西アフリカ系祖先を持つことが判明した。
具体的には、両者ともに母系のミトコンドリアDNAでは北ヨーロッパで一般的な系統を持ちながら、常染色体DNAでは西アフリカのヨルバ人、メンデ人、マンデンカ人、エサン人といった集団との遺伝的親和性を示した。
少女の場合、同じ墓地内で母方の祖母、叔母、曽祖父にあたる血縁者も特定。しかし、これらの血縁者にはアフリカ系の遺伝的特徴は見られなかったことから、アフリカ系の祖先が父方由来であることが裏付けられた。
少女は当時の上流階級の女性と同じように丁寧に埋葬されていた。ナイフ、スプーン、くし、装飾された土器が副葬品として納められていた。埋葬された場所は王族の居住地に近く、彼女の家族がそれなりの社会的地位を持っていたことがうかがえる。重要なのは、彼女が外国人として差別されたのではなく、共同体の一員として受け入れられ、その慣習に従って埋葬されたことだ。
もう1人の若い男性も地域の他の人々と同じように埋葬されており、血縁関係のない別の男性と同じ墓に入れられていた。これは当時の社会で受け入れられていた可能性を示唆する。
放射性炭素年代測定により、両個体とも7世紀中頃に埋葬されたことが判明した。では、なぜ7世紀のイングランドに西アフリカ系の人々がいたのだろうか。
この時代、ビザンティン帝国(東ローマ帝国)が北アフリカを支配しており、地中海世界と西アフリカの間で活発な交易が行われていた。金や象牙などの貴重品とともに、人々もサハラ砂漠を越えて移動していた。その交易ルートは最終的にイングランドまで達していた可能性が考えられる。
Source and Image Credits: Sayer D, Gretzinger J, Hines J, et al. West African ancestry in seventh-century England: two individuals from Kent and Dorset. Antiquity. Published online 2025:1-15. doi:10.15184/aqy.2025.10139
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