「切り取り」と「要約」が生む新たな炎上メカニズム 背景を追わない時代の弊害とは:小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)
ネットの炎上事件などはもはや珍しくもなくなり、毎日どこかで炎上したというニュースが流れてくる。ただそれも、炎上内容にはある程度のトレンドがあり、何か1つの事件がきっかけで類似の事件があぶり出されるというパターンになっているようだ。直近の炎上からそのパターンを見てみよう。
通用しなくなった、テレビ的な物言い
芸能人の炎上という点では、チョコレートプラネット松尾駿氏に関係する失言炎上は、近年の炎上の特徴をよく表している。なお本稿は、松尾氏の発言の是非を問うものではない。
元々の経緯を振り返ると、結構長い。発端は、アインシュタイン稲田直樹氏のSNSが乗っ取られたことである。乗っ取られたアカウントによる不適当発言に対して、稲田氏への誹謗中傷が相次いだ。これは上記分類で言う、「反倫理・反社会行為型」炎上である。のちに乗っ取りとわかったが、それでも一部の人たちによる誹謗中傷が止まらなかったことは、重大な問題である。
こうした現状に対して松尾氏が状況を憂い、コンビのYouTubeチャンネルにて、「誹謗中傷に関してだけど、芸能人とかアスリートとか、そういう人以外、SNSをやるなって。素人が何を発信してんだってずっと思ってて」と怒りをあらわにした。
この発言に対して、「素人はSNS禁止」といった形でSNSに広く伝播した結果、炎上を招いた。これは上記の分類で言う、「失言・不適切発言型」である。つまりこの件は、タイプの異なる2分類の炎上が連続して起こった、いわゆる延焼とも言える問題であった。
追って公開された謝罪動画の中で松尾氏は、「芸人として大きく言う"ボケ"のつもりでもあったが、結果として偉そうな言い方になってしまった。」と謝罪した。コンビの長田庄平氏は、「いち芸人が無茶苦茶なこといってるなっていうことでスルーされると思ったんですが、それが切り取られ拡散されてしまった」と分析した。こうした、発言意図と拡散情報との間にズレが大きく、修復が不可能になるのが近年の舌禍炎上の特徴である。
テレビタレントによる「失言・不適切発言型」炎上に関しては、理由ははっきりしている。現代はもはや、ブロードキャスト的な話の出し方が通用しなくなったということだ。
かつてテレビ・ラジオのような一方向メディアの情報は、基本的には再放送されることもなく一過性で消えていくものであったので、多少過激なことを言ったとしても、それがいつまでも掘り返されて繰り返し消費されるということがなかった。また視聴者の方も、ものを言う手段がなかった。
しかし今は放送でもそれを書き留めるメディアはたくさんあり、またコンプライアンス的にも厳しくなっている関係から、一過性ゆえの「言ってしまえ」「やってしまえ」という考え方は後退している。一部には辛辣な発言を売りにするタレントもいるが、その人たちはYouTubeやSNSなどのインタラクティブメディアに直接出てきて発言するということは少ない。それはある意味、直接視聴者の意見の届く場所に降りていかないという判断であろう。
一方YouTubeやSNSは、新しい露出チャンネルと言えるが、いつでも繰り返し再生可能であり、いいコンテンツは何度も消費されて大きな利益を生むため、そこに目がくらみがちだ。しかし失言があればそこだけ切り取られて、何度も何度もこすられて消えないという、ハイリスクなメディアである。テレビのように、過激な発言も最後は笑いで落とすことで流されるという傾向がない。テレビよりも気軽に発信できるように見えるが、著名人にとっては発信内容はより慎重になることが要求される。
じゃあ切り取られないような発言の仕方をしろよというのも、無理な話だ。何がどう切り取られるかは、発言者側がコントロール出来ない。今回の炎上に関連するXでの発言を追っていくと、そもそもなぜ炎上したのかわからないと困惑するコメントも数多く見られる。情報の受け手側でも、炎上をコントロール出来ない。
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