“人類最高齢117歳まで生きた女性”を分子レベルで解析 長生きの秘訣を考察 「毎日ヨーグルト3個を摂取」:Innovative Tech
スペインのJosep Carreras Leukaemia Research Instituteなどに所属する研究者らは、2024年8月に117歳で亡くなった世界最高齢者マリア・ブラニャス・モレラさんの生物学的特性を包括的に解析した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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スペインのJosep Carreras Leukaemia Research Instituteなどに所属する研究者らが発表した論文「The multiomics blueprint of the individual with the most extreme lifespan」は、2024年8月に117歳で亡くなった世界最高齢者マリア・ブラニャス・モレラさんの生物学的特性を包括的に解析した研究報告だ。
彼女は1907年3月4日にサンフランシスコでスペイン人の両親のもとに生まれ、8歳からスペインで暮らした。117歳168日間を生き、カタルーニャ地方の女性平均寿命86歳を30年以上も上回った。がんや神経変性疾患といった加齢関連疾患をほとんど発症することもなく、晩年まで比較的良好な健康状態を維持した。
研究チームは、モレラさんが116歳のときに血液や唾液、尿、便のサンプルを採取し、ゲノム、トランスクリプトーム、メタボローム、プロテオーム、マイクロバイオーム、エピゲノムという多層的な解析を実施した。
結果、彼女の遺伝子には、ショウジョウバエや線虫など他の生物種で、長寿との関連が確認できている遺伝子変異が豊富に含まれていることが判明。特に認知症の兆候が全くなかったモレラさんは、血中脂質レベルを低く保ち、心臓と脳(認知機能)の機能を保護する多くの遺伝子変異を持っていた。一方、がんやアルツハイマー病、代謝疾患のリスクに関連する有害な遺伝子変異は持っていなかった。
血液検査の結果、彼女の脂質代謝は報告されている中で最も効率的なものの一つであることが明らかに。VLDL-コレステロールと中性脂肪値は極めて低く、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)は非常に高い値を示した。これは彼女の食生活と有害分子を素早く代謝する遺伝的特性の両方に起因すると考えられる。
過去20年間、モレラさんは朝食に8種の穀物とタンパク質入りミルクスムージー、昼食と夕食には野菜、果物、豆類、オリーブオイルを豊富に含む地中海式の食事を続けていた。さらに毎日3回、砂糖なしのプレーンヨーグルトを欠かさず摂取していた。
腸内マイクロバイオームの分析では通常、加齢とともに減少するビフィズス菌が、モレラさんの腸内では若い人のレベルに匹敵するほど豊富に存在していた。研究チームは、彼女のヨーグルト摂取がビフィズス菌レベルの継続的な補充に役立っていたと推測している。
研究者たちは、モレラさんの生物学的年齢が実年齢とどの程度異なるかも調査。DNAメチル化に基づくエピジェネティック時計を作成したところ、彼女の生物学的年齢は実年齢より約23歳若かったことが判明した。
Source and Image Credits: Santos-Pujol et al., The multiomics blueprint of the individual with the most extreme lifespan, Cell Reports Medicine(2025), https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2025.102368
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