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クラウド→オンプレ回帰の流れ? IP化で先行する欧州の放送業界、「IBC 2025」にみる最新動向小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/2 ページ)

IBCは、例年9月にオランダ・アムステルダムで開催される放送機器展だ。以前は放送フォーマットの違いにより、IBCは日本からあまり注目されていなかった。しかしIPの時代になり、ヨーロッパがIPで先行し始めてからは、俄然注目されるようになっている。今回は各メーカーの発表を中心に、日本でも導入されそうなIP・IT・DX関連のニュースをまとめてみたい。

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AIで4K化と最適化を実現するBeamrとNVIDIA、しかもオンプレミス

 GPUの最大手米NVIDIAでは、以前からAIプラットフォームとして「NVIDIA Holoscan for Media」を公開してきた。要するにAIをGPUでぶん回してリアルタイム画像処理させるためのハードウェアフレームだ。昨年のIBCでは米RED DIGITAL CINEMAがNVIDIA Holoscan for Mediaをインテグレーションするという発表もあったが、具体性がゼロで実際何をどうするのかさっぱりわからなかった。その後も続報が出ていないことを踏まえれば、単に将来一緒に何かやりますという発表だったのかもしれない。

 しかし今回のIBCでイスラエルBeamrが発表した新技術は、NVIDIA Holoscan for Mediaを使って720pの低解像度映像をAIで4Kにリアルタイムアップコンバートし、同社のコンテンツ適応型ビットレート(CABR)と組み合わせて、最大50%のビットレートを削減して伝送できるという。

 アップコンバートは単純なスケーリングではなく、AIにより最適な高解像度化処理が行われる。それに加えてフレーム単位でリアルタイム解析され最適化される圧縮技術により、高解像度4Kライブストリーミングを実現する。

 これまでAIを使ったアップスケーリングは大量のリソースを食うため、AWSがクラウド上で行うデモを見たことがあるが、この技術はNVIDIAのRTX PRO 6000 Blackwellワークステーションを使用する。つまりオンプレミスで動作するというものだ。


NVIDIAのRTX PRO 6000 Blackwellワークステーションモデル

 現在放送業界での議論は、クラウドにいつまでお金を払い続けるべきか、である。常時使い続ける機能に対してずっとクラウド利用料を払い続けるのは、コスト的に合わないのではないか、という話だ。常時使うものはオンプレミスのハードウェアで買い切り、一時的に大量のリソースが必要となるイベントの時だけクラウドを利用するという方法論が妥当という見方が強まっている。

 Beamrの技術は、まさにその隙を突いたソリューションだ。今回はあくまでも技術デモであり、具体的にどのような形で製品化するのかはまだわからない。ただヨーロッパで採用の多い720pは、1080pよりも解像度が低く、4K化するにもかなりの技術とリソースが必要になる。これをオンプレでリアルタイムで実現するというところに、見どころがある。

 ただこの考えを延長していけば、配信は低解像度でやっておき、視聴者が自宅もしくは手元でAI型アップスケーラを使えばいいんじゃないか、というところにたどり着く。本当に配信側がコストをかけて高解像度ストリーミングしなければならないのか、やがて再考するタイミングが来るだろう。

プロトコルを跨いでIPソリューションを簡易化する「LiveU Nexus」

 IPによるクラウドベースのリアルタイム伝送技術として大手のイスラエルLiveUでは、次世代のクラウドベースのユニバーサルゲートウェイとして、「LiveU Nexus」を発表した。


「LiveU Nexus」の動作イメージ

 追加のハードウェアやコンバータなしで、SRT, RTMP, HLSなどのプロトコルを、自社が推進するLRT(LiveU Reliable Transport)と相互変換し、SDI, SMPTE ST 2110, NDI を含むプロダクションシステム間で IP ビデオコンテンツを入出力できる。またコンバート不要で、Zoom, YouTube Live、Facebookライブ等のソーシャルプラットフォームのライブフィードを簡単なURL/ミーティングリンクで取り込める。さらに解像度やフレームレート、アスペクト比などを自動的に最適化する。

 またクラウド制作用のLiveU Studio、録画用のLiveU Ingest、IP配信用のLiveU Matrixといった同社IPクラウドソリューションへ接続可能で、既存のLiveUレシーバとも統合できる。

 ポイントは、Zoom、YouTube Liveといったコンシューマ向けライブストリームシステムを、簡単にブロードバンドの中に持ち込めるということだろう。ライブニュースなどでも専門家のリモート出演は今や当たり前のように行われており、そのためにオンプレミスの仕組みやコンバータを用意する必要があったが、そうしたことをクラウドで解決しようというものだ。

 元々LiveUはクラウドソリューションであるわけだが、常時使うというよりも、レンタルをベースにピンポイントで使われるというケースが多い。こうした変換ソリューションも、テンポラリ的にいちいち組み上げるのが面倒なものを、全部クラウドに突っ込んで一元処理するという、クラウドのいいところを活かしたものと言える。

 日本の放送業界も、ようやくクラウド利用に関して抵抗感がなくなってきたところだ。その主な理由はセキュリティへの不安であったが、それよりもコストを取ったということである。一方IPやクラウド化が先行するヨーロッパでは、同じコスト面から逆にオンプレへ戻るという現象が起こりつつある。

 日本の放送は、この動きをどう捉えるのだろうか。答えは来月のInter BEEでわかるかもしれない。

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