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「アイデア出しツール」にも生成AIの波 GoogleとAdobeも参入する、オンラインホワイトボードの今小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

米Adobeと米Googleが同日、生成AIを活用した「アイデア出しツール」を発表した。オンラインホワイトボードやマインドマップツールが進化してきた流れの先に、両社はどんな未来を描くのか。ツールの特徴と狙いを読み解く。

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 9月24日は、奇妙な発表が2件同時に行われた。1つはグラフィックス界の巨人米Adobeが、同社のイベントAdobe MAX London 2025で同社生成AI Fireflyの機能として発表した「Adobe Firefly Boards」。もう1つは検索業界の巨人米GoogleがGoogle Labsとして発表した、「Mixboard」だ。

 これらは何かというと、生成AIをゴリゴリに使う「アイデア出しツール」だ。どちらもβ版だが、現在日本語環境でも問題なく動作する。似たようなサービスを同日発表するということは、何らかの連携があったと見るべきだろう。

 今年10月下旬にロサンゼルスで行われたAdobe MAX 2025では、モバイル版Premiereにおいて、Googleとのコラボレーションが発表された。具体的にはYouTubeショートとの連携なのだが、ここでYouTubeの名前を出さず、あえてGoogleとの関係性を強調した。Adobe Fireflyでは生成AIのパートナーとしても、Googleと連携している。


今年10月のAdobe MAX 2025で発表された、Googleとのコラボレーション

 今なぜ、AIでアイデア出しツールなのか。その背景を考えてみたい。

アイデアをまとめるツールの変遷

 過去アイデアを形にする方法論としては、幾つものやり方が開発された。アナログというか物理的な方法としては、「KJ法」が思い当たる。これは日本の文化人類学者である川喜田二郎氏が、フィールドワークから得られた情報を整理・分析するために開発した手法で、多数の情報やアイデアをカード化し、意味の近いもの同士をグループ化して本質的な構造を見いだすという方法だ。

 情報を言語化して、それをグループ化して階層構造を作るという手法は、多くはボードに付箋紙を貼り付けていくというやり方で実施される。

 1990年代に入りPCの時代になると、「アウトラインプロセッサ」なるものが登場した。別名「アイデアプロセッサ」とも呼ばれたこのツールは、「Acta7」などがよく知られている。

 文章自体は基本的に上から下に流れるものだが、その文章を階層構造化できる。つまり見出しの下に幾つも文章を追加でき、見出しごとに折りたたんだり展開したりできる。1つの文章をつかんで別の見出しに入れたりすることもできる。これは現在のMS Wordなどのワープロソフトにも、その名残を残している。

 一般に長文を書くときには、頭から書き始める人はまれで、まずは全体の構造をアイデアとして考え、そのあとに細部を記載していくという方法論になる。そうした用途に適したツールだった。

 1990年代末ごろになると、マインドマップと呼ばれるツールが普及し始めた。多くの人はこちらの方がなじみがあるのではないだろうか。

 古くからよく知られるところでは、今もサービスを続けている「MindManager」がある。またオープンソースとして作られたものには、「FreeMind」がある。2014年頃で開発が止まっているようだが、その傍系として「Freeplane」があり、こちらは現在も開発が続けられている。

 これらは、いわゆるツリー構造を用いて、アイデアや要素を構造化していくタイプのツールだ。アウトラインプロセッサをより平面的に展開したもの、と考えればいいかもしれない。視覚的な要素も多分に含まれており、ある意味ではKJ法の考え方に近いとも言える。

 2000年以降に立ち上がったサービスとしては、香港で現在も開発が進められている「XMind」もよく知られているところだ。これはマインドマップからスタートして、現在は生成AI対応となり、プロジェクト管理ツールなどとの統合化が進められている。

 こうしたアイデア出しツールに大きな変化が現れたのは、2020年のパンデミック以降である。多くの人がリモートでつながるようになり、オンライン上で複数人が1つの場所で同時にコラボレーションできるツールが求められた。

 現在よく知られているツールに「Miro」がある。もともとは「RealtimeBoard」という名称で開発が進められてきたが、2019年にリブランドすると、コロナ禍の追い風もあって一気に知名度が上がった。2022年には日本語版も登場し、ビジネスシーンでは今でもよく使われているようだ。


Miroのボード画面

 Miroは「ビジュアルワークスペース」と位置付けられているが、単にオンライン上のホワイトボードにとどまらず、生成AI機能を使ってイメージ画像を生成したり、マインドマップを作ったり、プロジェクトをロードマップに落とし込んだり、プレゼン資料を作成したりと、まとまったアイデアのアウトプットまでを視野に入れたところにある。

 つまり現在のビジネスシーンにおいて、アイデア出しからプロジェクト管理まで可能な総合ツールとしては、マインドマップからスタートしたXMind群と、オンラインホワイトボードからスタートしたMiro群の2つの流派がある、ということになる。

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