「アイデア出しツール」にも生成AIの波 GoogleとAdobeも参入する、オンラインホワイトボードの今:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
米Adobeと米Googleが同日、生成AIを活用した「アイデア出しツール」を発表した。オンラインホワイトボードやマインドマップツールが進化してきた流れの先に、両社はどんな未来を描くのか。ツールの特徴と狙いを読み解く。
生成AI基準のアイデア出しツールとは
こうした流れを踏まえて、改めて米Adobeと米Googleの両ツールを見ていく。
Adobe Firefly Boardsは、Adobe MAXでデモも拝見したところだが、目的は生成AIを駆使して、デザインやイメージ画像といった、ビジュアルのアイデア出しをすることだ。見た目はただ単に広いバーチャル空間があるだけだが、アイデアのスタート地点となるのはあくまでも何らかのビジュアルである。その点では、言葉ベースの上記アイデア出しツールとは、アプローチが異なるだけでなく、ゴールも異なる。
基本となるビジュアルも、プロンプトで生成することができる。Fireflyでは、他社の生成AIとパートナーシップを結ぶことで、Fireflyの中からそれらの生成AIを使うことができるようになった。生成AIは種類によってテイストや得意分野が違うので、バリエーションを複数のAIに作成させることで、アイデアを広げていける。
ボードには矢印やテキストなどを付け加えることができ、ArtBoardを作成してグルーピングもできる。ただMiroのように、フリーハンドで図示したり、付箋紙を貼ったり、ディスカッションのためにコメントを挿入するといった機能はない。つまり、結論に至る思考プロセスをあとから追うには、少し機能が足りない。
アイデアを具現化する際には、他者に対して何らかのプレゼンテーションが必要になるわけだが、その結論に至ったプロセスが追えるというのは、根拠を明確にする上で非常に重要になる。ただ現時点ではまだβ運用のため、今後ブラッシュアップされる可能性はある。
米Adobeの強みは、ここで生成された画像をもとに、フィニッシングまで持っていけるグラフィックスツールを多数有しているというところだ。多くの生成AI事業者は、生成した後どうするかのツールやノウハウを持っていない。米Adobeが他社生成AIを飲み込んでいくのは、既定路線である。
さらに米Adobeの場合は、こうしたビジュアルを広告宣伝戦略やパッケージングなどのビジネスに落とし込むツールとして、別途エンタープライズ用に「GenStudio」というサービスを提供している。つまりクリエイターとビジネスマンで、ツールを分けたということだ。
Fireflyで使える生成AI群は、12月1日まで無料でテストできる。その後は生成クレジットを購入する必要がある。試行錯誤の過程で生成AIをたくさん回し、クレジットをいっぱい使ってくれることを期待するものだ。
GoogleのMixboardはどうか
一方Google Mixboardはどうか。こちらもベースとなる画像をアップロードしたり、コマンドプロンプトを打ち込んで画像生成させることはできるが、生成AIは同社提供のものに限られる。その点では、別テイストの画像を得るのは難しい。
ボード上のイメージに対しては、バリエーションを生成させたりすることはできるが、フリーハンドで書き込めるのは画像内に限られる。本来はボード上に書き込めるべきだ。また関係性を示す矢印のような線画や、グルーピングするための機能もない。テキスト入力ができるぐらいで、基本的には従来の画像生成モデルをホワイトボード上に置いただけ、という実装になっている。
アイデア出しツールとしては、あまりにも機能がなさすぎて、どう使っていいのか途方に暮れる。現在まだラボ機能として公開されたにすぎないが、現時点での機能では他社へ対抗するのは難しい。
米Googleの強みとしては、圧倒的なユーザー数を誇るGoogle WorkspaceやNotebookLMといった別ツールと連携できる余地があるということだ。ただ現時点ではそうした連携はなく、方向性として米Adobeのようにビジュアル作成のアイデアツールなのか、それともビジネスユースのアイデアツールなのか、方向性が示されていない。つまりこれが具体的な業務フローとどうつながるのか、見えてこない。
ただ、ラボ機能とはいえ一般公開した理由は、多くのフィードバックを得ることによって方向性を見つけていくということだろう。
個人的には、ビジュアル系ツールとしてはフィニッシングに至るツールを米Googleが持っていないということもあり、米Adobeのような方向性はあまり可能性がないのではないかと思う。さらには米Adobeとはパートナーシップを結んだ中でもあり、わざわざ競合しに行くとは考えられない。
むしろ米Googleが得意なのはエンタープライズ系のビジネスソリューションであり、そちらの方向へ進むのではないかと考えている。そうなると、前出XMindやMiroのようなツールと競合することになる。
こうしたアイデア出しツールは、生成AIによる「すごくきれいな使い方」だ。現在もチャット型AIを相手にブレストしてアイデアを練る人も多いだろう。
だが一般にアイデアがどこから出てきて、どういうプロセスを経たのかは、ほとんど表に出てくることはない。あくまでもプロジェクトチーム内、せいぜい社内などの閉じた環境の中で共有されるだけだ。
米Adobeや米Googleがアイデア出しツールへ参入した背景には、昨今何かと問題になりつつある生成AIの、どこからも文句のつけられない用途を開拓したいという思惑もあるのではないだろうか。
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