2200万円かけ米展示会に出展も挫折→Web集客に舵 とあるコンクリ型枠事業者の海外戦略:ニッチ企業でもできる!IT活用で海外進出
ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業「グローバルニッチ」や、それを支える企業の声をインタビューで深堀りする。第7回はコンクリート型枠の製造・販売を手掛けるフォービル(大阪市)を取り上げる。
世界でも高い技術力を持つことで知られる日本企業。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営思想家のハーマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。
グローバルニッチは高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて劣り、ITを駆使して海外でのブランディングや販売に生かしていることも多い。この連載では、こうした企業のIT戦略をインタビューで深堀りする。
第7回はコンクリート型枠の製造・販売を手掛けるフォービル(大阪市)を取り上げる。同社はラスベガスの展示会で挫折を経験したものの、Webサイトでの集客によってカバーし、顧客獲得につなげているという。同社の森本隆之会長は「当社の製品に興味のある人に直接アクセスすることができる」と振り返る。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手掛けるZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)。
出展費用に計2200万円かけるも挫折……Web集客に舵切った背景
──フォービルはコンクリート型枠など建設資材を製造・販売しています。事業の概要と強みを教えてください
森本会長:当社は自社開発した「ガッチ」というコントリート型枠を販売しています。コントリート型枠とは、液状のコンクリートを流し込み、設計通りの形に固まるまで維持するための仮設の枠組みのことです。建物の基礎や壁、柱、梁など、さまざまなコンクリートの構造物を作る際に使います。
ガッチは、耐久性に優れたFRP(繊維強化プラスチック)製のシステム型枠です。ブロック玩具のように組み合わせることで、誰でも簡単に連結できるのが特徴で、特許も取得しています。
従来の型枠は、合板を切り貼りしてミリ単位で製作していました。洋服に例えれば「フルオーダー」ですから精密ではありますが、高いコストがかかっていました。ガッチの場合、クリップをクリップ穴に通すことで連結させるので、熟練者でなくても表面が凸凹になりません。組み立ても容易で工数削減にもつながり、時間やコストを少なくできます。例えば、同じ構造物の組み立て時間を計測したところ、解体までの時間が従来に比べて1割程度削減できました。
──建設業は国内需要も活況ですが、海外進出した理由は
森本会長:ガッチは熟練の技術を必要としない製品です。国内で普及してきていますが、採用に抵抗のある熟練職人の方々も存在します。日本の職人は非常に優秀で難しい構造物も自分でベニヤ板を切り貼りして作れるからだと思います。
一方で海外、特に米国企業は非常に合理的な考え方をします。彼らは長い期間、高いコストをかけて熟練職人を育てるよりも、新しい技術を活用した方が良いと考えるわけです。このため、私たちもどんどん海外需要を開拓した方が良いと思うようになりました。
──海外進出といってもさまざまな方法がありますが、どんな手段で進出しようとしたのでしょうか
森本会長:社内関係者や社外の専門家と相談した結果、米ラスベガスで開かれる「WOC」(ワールド・オブ・コンクリート)という展示会に出展することにしました。この展示会は世界各国のコンクリートに関わるメーカー(機械、材料、工具など)が多く参加する展示会なので、当社の製品にも需要があると考えました。まずは2023年1月に、次に24年1月に出展しました。
──展示の内容は
森本会長:ブースを設けて、ガッチやアルミ製仮設支柱の「アルパ」といった当社製品を展示しました。ただ、米国は高インフレが続いており、外国為替市場では円安・ドル高も進んでいます。このため出展費用は非常に高かったですね。1回目は700万円、2回目は1500万円ほどかかりました。
──海外の展示会ならではの苦労は
森本会長:設営にも50万〜60万円の費用がかかりますから、まずは3m角の小さなブースにしたのですが、限られたスペースでは十分に製品を展示できません。とはいえ、広いブースを借りれば多額の費用がかかりますので苦労しました。
──出展で得られた結果は
森本会長:展示会を通じた成約はなく、ビジネスとしての効率性は悪かったと言わざるを得ません。この展示会には5万人ものコンクリート関係のビジネスマンが訪れますが、当社のガッチという製品に興味がある方々はごくわずかです。
多くの企業がブースを構えており、ニーズのある方が実際に当社のブースを訪れてくれるかどうかは分かりません。もちろん、展示会自体は興味深く、参加者との会話もあり、多くの学びがありました。後悔しているわけではありませんが、当面、出展は見合わせたいと考えています。
──一方で現在、フォービルはITを活用した世界進出に舵を切っています
森本会長:展示会でうまくいかなかった教訓を踏まえて、当社製品に興味のある人に直接アクセスすることを考えるようになりました。私自身も大学でコンピュータ言語を学んだ経験もあり、ITは身近な存在でした。外部企業にも協力してもらって、他社製品との比較サイトを英語で作成しました。Webサイトにはガッチの特徴や強みを解説し、問い合わせのメールアドレスも記載しました。
24年11月からスタートしましたが、すでにイスラエル、サウジアラビア、オーストラリア、カナダ、台湾などの企業から問い合わせがきています。特にイスラエルの企業とは成約に向けて交渉が進んでいる状況です。海外では日本以上に人件費が上昇し、建設業では出稼ぎで入国した非熟練の外国人労働者も多いと聞いていますから、当社のガッチへのニーズは多いと考えています。
──展示会との勝手の違いは
森本会長:インターネットは展示会と違い、世界中にいる未来のユーザーとの出会いのチャンスを作ってくれます。業者と協力しながらデータを分析し、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回して常に情報提供の質を向上させようとしています。ネットではアクセス数などのデータも瞬時に取れますから、PDCAを回すスピードも速いのが特徴です。
また、当社のようなニッチ分野の場合、インターネットとの相性が非常に良いように思っています。わざわざネットで検索して当社のサービスにたどり着く人は独自の要望があり、当社製品への関心が非常に高いからです。この点、さまざまな関心を持って多くの人が参加する展示会とは大きく違います。
当社の海外ビジネスはまだ始まったばかりです。現時点では自信をもって成功したと言えませんが、ITを活用することにより、今後の海外ビジネスの展開に希望が持てています。
──インターネットでの情報収集においては、生成AIも存在感を強めています
森本会長:最近は従来の検索サイトではなく、生成AIで情報検索する人も増えてきています。現状に甘えず、製品開発も情報発信のやり方も時代に合わせて改善を重ねていくことが必要だと考えています。
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