“書ける”のは同じ、では「高級筆記具」とは何か? 「KOKUYO WP」開発者に聞いた素材と技術、その目的の話:分かりにくいけれど面白いモノたち(1/4 ページ)
長い間、高級筆記具はコレクター向けか贈答品向けだった。しかし今はコクヨや三菱鉛筆などの一般筆記具を作っていたメーカーも高級筆記具を発売している。それでも今回の「KOKUYO WP Limited Edition」は、かなりの冒険に見えた。
高級筆記具というジャンルがある。というか、筆記具くらい実用品でできることは変わらないのに価格差が激しい製品も少ないかもしれない。ボールペンだけを見ても、それこそ、1本100円以下で買えるものから10万円を超えるものもある。万年筆なんて、300円くらいから数百万円まであって、しかしできることは「書く」ことだけだ。
11月28日から一般販売を始めた「KOKUYO WP Limited Edition 2025」。写真上から「WP-L001 木軸/イチイガシ」3万5000円(税別)、「WP-L002 金属軸/モスマーブル」2万5000円(税別)
実際、長い間、高級筆記具はコレクター向けか贈答品向けで、一般の利用者向けの製品はせいぜい数千円止まりだった。ほんの10年前、私がTBS「マツコの知らない世界」に“ボールペンの人”として出演した2015年に「高級ボールペンの面白さは世間にはあまり知られていないから、それ中心でいきましょう」と、打ち合わせの中でディレクターと一緒に決めたことを思い出す。それくらい、高級筆記具は一般的でなかったのだ。
それが、今では5000円以上のシャープペンシルを小学生が発売日に並んで購入したり、数千円のボールペンは自分のために買うという人も増えている。三菱鉛筆の「ユニボール ZENTO」のシグネチャーモデルは3300円という価格にも関わらず、あっという間に売り切れて、私は店頭で見つけることができなかった。同様に、この連載で開発ストーリーを書いたこともあるコクヨの「KOKUYO WP」も、発売当初から人気が高く、4840円という価格にも関わらず、一時期は品薄になっていたほど。
インクやチップの性能だけでいえば、実のところ、国産のボールペンの場合、150円のものも数千円のものも同じ技術のものが使われている。それこそ、私が「マツコの知らない世界」に出演した頃は、まだ高級ボールペンの世界では、低粘度油性インクやゲルインクが使われていなかったため、書き味だけでいえば、150円のジェットストリームや、100円のサラサクリップの方が、万年筆とデザインを合わせた贈答用の2万円のボールペンより全然良かったのだ。
そういう時代も過去のものとなり、今やパイロットやプラチナ万年筆などの元々高級筆記具を作っていたメーカーだけでなく、前述のように、コクヨや三菱鉛筆などの一般筆記具を作っていたメーカーも高級筆記具を発売している。デジタルの普及によって“書く”ことが一般的でなくなったからこそ、“書く道具”は実用性とは別の価値を持ち始めたともいえるのかもしれない。高級キーボードであるPFUの「HHKB」シリーズが売れてきたのも、その流れの中にあると考えることもできるだろう。
そういう流れがあってもなお、今回のコクヨの「KOKUYO WP Limited Edition」は、かなりの冒険に見えた。なんといっても、金属軸が2万5000円(税別)、木軸が3万5000円(税別)なのだ。ボールペン、サインペンとして、この価格は、高級筆記具メーカーの製品レベル。そこに、どういう思惑があり、どういう筆記具を目指したのだろう。コクヨの開発担当者へ取材して、高級筆記具の現在を考えてみた。
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