睡眠中に「脳内のごみ」を活発に洗い流していた 掃除が不十分だと認知症リスク増 米国チームが発表:Innovative Tech
米ワシントン大学や米ロチェスター大学などに所属する研究者らは、脳の老廃物排出と免疫監視に関する最新の知見をまとめた報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ワシントン大学や米ロチェスター大学などに所属する研究者らが発表した論文「Resolving the mysteries of brain clearance and immune surveillance」は、脳の老廃物排出と免疫監視に関する最新の知見をまとめた報告だ。
臓器には老廃物を運び出すリンパ管が張り巡らされているが、脳の内部にはリンパ管が存在しない。では脳はどのようにして代謝老廃物を処理しているのか。この問いに答えたのが、2012年に提唱された「グリンパティック系」だ。
グリンパティック系とは、脳脊髄液が動脈周囲の隙間から脳内に流入し、細胞間を流れながら老廃物を回収し、静脈周囲や髄膜のリンパ管を経由して脳外へ排出される経路のこと。この流れを支えているのが、アストロサイトという支持細胞に密集する「アクアポリン4」という水を通す穴(チャンネル)だ。この穴の機能を阻害すると脳液の流れは著しく低下することが、遺伝子改変マウスなどを用いた実験で確かめられている。
注目は、この排出システムが睡眠中に活性化すること。マウスの研究では、睡眠時のβアミロイド(アルツハイマー病の原因物質の1つ)の除去速度は覚醒時の約2倍に達した。睡眠中は脳細胞の隙間が広がり、液体が流れやすくなることがその理由の一つだ。
さらに深い睡眠(ノンレム睡眠)の間には、脳幹の青斑核からノルエピネフリンが周期的に放出され、これが血管を大きく収縮・拡張させて脳脊髄液の流入を促す。
一方で、一般的な睡眠薬はこの自然なリズムを再現できないため、脳の掃除を促進しないという報告もある。
脳の掃除システムは免疫の監視とも深く結びついている。脳から運び出された物質は、脳を包む膜(髄膜)にいる免疫細胞に受け渡され、そこで脳に異常がないかがチェックされる。この連携がうまくいかなくなると、アルツハイマー病のモデルマウスでは有害なタンパク質(βアミロイド)の蓄積が悪化し、認知機能の低下が早まることが確認されている。
グリンパティック系は、主にマウスなどの小動物で研究されてきたが、ヒトとは脳の大きさや構造、睡眠パターンが異なるため、そのまま当てはめることはできない。それでもMRIを使った研究により、ヒトの脳にも同様の排出経路が存在し、特に睡眠中に脳脊髄液の流れが活発になることが確認されている。
脳の老廃物排出と免疫監視の相互作用を解明することは、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患だけでなく、脳腫瘍や自己免疫疾患、精神疾患への新たな治療戦略につながる可能性を秘めている。
Source and Image Credits: Kipnis J, et al. Resolving the mysteries of brain clearance and immune surveillance. Neuron. 2025;113(23):3908-3923. doi:10.1016/j.neuron.2025.10.036
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