なぜ寝不足で頭が回らないのか? “脳の配線”劣化が原因か イタリアチームが発表:Innovative Tech
イタリアのカメリーノ大学などに所属する研究者らは、睡眠不足が脳にどのような影響を与えるのかを調査した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
イタリアのカメリーノ大学などに所属する研究者らがPNAS誌で発表した論文「Sleep loss induces cholesterol-associated myelin dysfunction」は、睡眠不足が脳にどのような影響を与えるのかを調査した研究報告だ。
睡眠不足は日常的に多くの人が経験しており、生活の中で反応速度の低下や注意力の欠如などの影響を与えている。しかし、なぜこのような影響が生じるのか、その根底にある生物学的な原因はよく分かっていない。
これまでは、寝不足で頭が働かなくなる原因として主に神経細胞(ニューロン)の活動に注目し、研究が進められていた。しかし研究チームは、神経の信号を高速かつ正確に伝えるための神経線維を覆う絶縁体である「ミエリン」(髄鞘)に着目した。
ミエリンを電線に例えると、銅線を覆う絶縁体のビニールカバーといえる。ミエリンを作り維持しているのは、オリゴデンドロサイトと呼ばれる細胞だ。
研究チームはまず185人の健康な被験者の脳MRIデータを分析し、睡眠の質が悪い人ほど、脳の白質(神経線維の束)の微細構造に乱れが見られることを確認した。
次にラットを用いた実験で、10日間の睡眠制限を行った。電子顕微鏡で観察すると、睡眠不足のラットでは脳梁などの部位でミエリンが薄くなっていた。実際に脳の左右半球をつなぐ信号の伝達速度を測定したところ、睡眠不足のラットでは約33%の遅延が生じていた。これに伴い、左右の大脳半球の神経活動の同期も乱れていた。
なぜ睡眠不足でミエリンが傷つくのか。詳しく調べると、睡眠不足によってオリゴデンドロサイトの内部でコレステロールの運搬がうまくいかなくなっていた。コレステロールは血管に悪いイメージがあるが、ミエリンの主成分であり、絶縁性能を保つために必要とされる。睡眠不足のマウスのミエリンを分析すると、実際にコレステロールが減っており、膜が柔らかくなって絶縁機能が落ちていた。
そこで研究チームは、細胞内のコレステロール輸送を助けるシクロデキストリンという薬を睡眠不足のラットに投与した。するとミエリンのコレステロール量は正常に保たれ、信号の伝達速度も落ちなかった。さらに記憶力や運動能力のテストでも、薬を投与したラットは普通に眠ったラットと同程度の成績が維持できた。
Source and Image Credits: R. Simayi,E. Ficiara,O. Faniyan,A. Cerdan Cerda,A. Aboufares El Alaoui,R. Fiorini,A. Cutignano,F. Piscitelli,A.S. Maroto,A. Santos,F. Del Gallo,L. de Vivo,S. De Santis, & M. Bellesi, Sleep loss induces cholesterol-associated myelin dysfunction, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123(4)e2523438123, https://doi.org/10.1073/pnas.2523438123(2026).
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