連続起業家・けんすう氏に聞く、生成AI時代のIT起業論 後追いされない事業を創るには(2/2 ページ)
生成AIの台頭によって、IT起業のセオリーは根底から覆りつつある。連続起業家で、ビジネスインフルエンサー「けんすう」としても知られる古川健介さんも「(起業の)ハードルが上がったと評する。これから起業する人は何に目を付け、どんな事業を立ち上げるべきか。
「IP化」が資産を築く足掛かり?
一方、ここまで述べたような独自の資産をこれから築かなくてはいけない場合、どのような動きが必要になるのか。けんすうさんは一例として「IP化」による世界観の構築や発信を挙げる。
けんすうさんのいうIP化とは、起業したい人が自身の考えなどをコンテンツ化することにとどまらず、自らの世界観を再利用可能な形で発信することを指す。「ドラゴンボールでいえば、漫画があるからアニメになり、アニメがあるから映画になる──みたいな形で再利用が続く。同様にコンテンツをIP化するにはどうすればいいか考えるのが重要」という。
このIP化に当たっては、守るべき要素が5つあるとけんすうさん。1つ目は発信の核となる固有の世界観。2つ目は「命名された概念」だ。思想やその枠組みが固有名詞化されていると、明快なキャッチコピーとして広がりやすくなる。
3つ目は「反復と一貫性」。漫画に例えるなら、例えば敵が出てくるたびに修行して強くなって倒して、また敵が出て──というように、同じ構造を繰り返すことで、主張や行動に説得力を持たせられる。
4つ目はコミュニティーだ。そもそも語り合う相手がいなければ話題は広がらない。最後は、テキストを音声にする、音声を動画にするなど、発信を別のメディアやフォーマットに再利用できるかどうかの「翻訳可能性」。これら全てがそろうことで、IP化が成立しやすくなる──というのがけんすうさんの考えだ。
ブルーカラー論はどう思う?
AIがホワイトカラーの仕事を代替していく論説を巡っては、相対的にブルーカラーの価値が上がっていくという意見も見られる。今後の起業もブルーカラー的なビジネスに目を向けていくべき──という考え方もできそうだが、けんすうさんは「リアルに価値が移るものはたくさんある。ただ、ブルーカラーが安泰というわけでもない」とみる。
「観光地など、場所にひも付いているものの価値は相対的に上がり得る。AIによる動画に対する、自分の知っている人が話す講演会など、明らかに人が介在しているものの価値も上がる可能性があると思う。ただブルーカラーは怪しい点がある。今空港に行くと、警備も掃除もロボット。ロボットがもっと安くなれば、結構簡単に置き換わってしまうところもあるのでは」
けんすうさんなら、どんな事業を立ち上げる?
以上を踏まえ、もしけんすうさんが生成AI時代に初めて起業するとしたら、どんな事業を立ち上げるかも聞いてみた。けんすうさんなら、ネット上にない、AIでは探せない情報を大量に調査して、企業に提供するような取り組みを検討するという。
「例えば(自分が)大学生だったら大学生1000人に聞いたアンケートを作りまくる。AIでオペレーションは楽にできるが、最終的には人に聞かないといけないし、データAIに読ませることで良い意思決定ができるなら、企業も買いやすい」
日々すさまじい速度で進化する生成AI。数カ月先の状況すら予測はできず、誰もが手探りで進むしかない状況だ。けんすうさんは取材の最後に、それでも激流に身を投じることの重要性についてこう説いた。
「未来のことは分からないので、自分が言ったことが外れている可能性もある。ただ、変化が大きいことは間違いない。そういうときはさまざまな人にチャンスがある。波が出たときは、沖にいる人しかそれには乗れない。どうなるかは分からないが、沖に出て海の中にいるのが大事」
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