16:9ではないディスプレイの世界――多種多様「LEDビジョン」に映す映像をどうネットで伝えるか:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/2 ページ)
ネットワークの祭典「Interop Tokyo 2026」に、放送機材メーカーがずらりと出展した。例年とは異なるこの光景の裏には、会場を埋め尽くすLEDビジョンの存在がある。正方形を積み上げた巨大ディスプレイは、もはや「16:9」に収まらない。放送規格の中で進化してきた映像機器は、この“規格外の画面”とどう向き合うのか。
映像機器側でLEDビジョンに合わせる
現時点での課題は、LEDビジョンへの入力信号は拡大や縮小、あるいは切り出しが必要となるが、スイッチャーは基本的に規格通りの映像信号しか出さないという点だ。
しかし昨今はスイッチャー側のアーキテクチャが変わってきたことで、実は相性が良くなってきている例もある。例えばPanasonic Connectのソフトウェアスイッチャー「KAIROS」は、出力解像度やアスペクト比が自由に設定できる。
これはKAIROSの映像出力が、実際はGPUによる特定解像度へのリアルタイムレンダリングによって実現しているから可能になっている。筆者は2021年にKAIROSの初代モデルを触らせてもらったことがあるが、当時からLEDビジョンを想定した変則解像度や変則アスペクト比出力に対応していた。
現在のKAIROSは、オンプレミスとクラウドの2タイプがあるが、イベントなど限られた期間しか利用しないのであれば、従量制であるクラウド版がリーズナブルである。一方本番環境で安定したネットワークが必要になるので、そちらの方の手配や構築が課題となる。
ソフトウェアスイッチャーは、現在多くのスイッチャーメーカーが製品化を進めている。現地にハードウェアを持ち込み、複雑な結線を行う必要がないという点では、規模が大きくなるほどメリットが出る。
もう一つの方向性としては、従来のハードウェアスイッチャーを利用しつつ、出力側にコンバーターを介して、LEDビジョン用の変則解像度や変則アスペクト比出力に対応させるという方法論がある。
これまでこうしたことに対応した製品が少なかったが、ローランドが6月11日に発表した「VC-1SC-4K」は、LEDビジョンへの出力を想定したコンバーターだ。
スイッチャーからのHDまたは4K映像から、特定部分の切り出し、解像度変換などを行い、LEDビジョン側の仕様に合わせて出力する。専用スマートフォンアプリでコントロールできるため、実際にビジョンへの出力を見ながら微調整できるのがポイントだ。スルー出力を使ってカスケード接続を行えば、複数台のLEDビジョンへの出力もできる。
映像送出側はこれまでの16:9システムでそのまま対応できるため、中小規模のイベントにメリットがある。発売は2026年10月下旬を予定しているという。
ネットワーク伝送のほうが有利?
筆者はもともとテレビ放送技術者なのでライブイベント寄りの話になってしまったが、常設デジタルサイネージということであれば、ネットワーク伝送のほうがもっと柔軟に対応できる。
AVoverIPでよく使われるSMPTE ST 2110、SDVoE、NDI、Dante AV Ultraあたりの規格は、すでに解像度やアスペクト比に依存しない伝送が可能になっている。
一方でLEDビジョンコントローラー側の入力は、HDMI、DisplayPort、SDIなどのリアルタイム映像信号には対応しているが、IP伝送が受けられるものはまだ一部に限られる。よって現時点では、IP伝送されたものをHDMIやSDIに戻すデコーダー、いわゆるゲートウェイが必要になる。
ゲートウェイは、ST 2110では放送用で使われる大型機は多いが、汎用的に使える小型機はまだ少ない。そもそも放送以外ではST 2110はあまり使われておらず、どちらかというとNDIやDante AVのほうが主力だ。ゲートウェイも会議用など小型のものが多い印象だが、屋外対応や振動、熱に耐性があるものはまだ一部に限られる。
どちらかといえばAVoverIPは、テンポラリ的なイベントでのメイン回線というよりは、遠隔地から制御可能な常設設備で多く使われている印象だ。よって、イベントでは遅延を嫌ってデジタル映像伝送、常設ではAVoverIPというすみ分けが行われている。
とはいえ今後はライブイベントであっても、解像度やアスペクト比の多様性、長距離伝送といった観点から、IP伝送が採用される可能性もあるだろう。超低遅延や、同期がかかるIP伝送が発展することが望まれる。
ネットワーク技術とデジタルサイネージの展示会に、IPに強い放送機器メーカーが出展することで、今後はより広いレベルで映像技術が融合していく過程にあるのかもしれない。
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