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System 7で幕をあけた激動の1990年代(後編)林信行の「Leopard」に続く道 第5回(2/4 ページ)

前回に続き、旧Mac OSの時代を具体的な機能とともに振り返ってみる。もしこの頃のMacを使っていたなら、あの“爆弾マーク”が日常風景の1つとして記憶されているだろう。

GomTalkとWorldScript

 数々の先進機能を備え、外観も大きく違うSystem 7は、Macユーザーにわくわくとした夢を与えるOSだった。ただし、多くのユーザーが利用したいと考えていたが、最初のバージョンSystem 7.0は、英語でしか提供されなかった。というのも、後にSystem 7.1というアップデートで、世界各国語に対応させる「WorldScript」という機能の搭載が予定されていたからだ。

五明正史氏のサイト「Gom Software」。いまでも「GomTalk7 v1.3」がアップロードされている

 しかし、それを待てないユーザーも大勢いた。そんな中、五明正史氏が開発した「GomTalk」と呼ばれる伝説のフリーウェアが登場する。

 System 7の一部を改造し、System 6に付属の日本語フォントを組み合わせることで、英語版System 7上で無理矢理日本語を使ってしまうというものだったが、当時、熱狂的なMacユーザーの間では、このソフトが大流行した。

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 もっとも、アップルが翌1992年8月のMacWorld Expo/BostonでSystem 7.1をリリースすると、このGomTalkも無用の長物となってしまう。System 7.1では、アラビア語やヘブライ語、ロシア語などの入力ができるWorldScript Iと日本語、中国語などの入力ができるWorldScript IIの機能が搭載されたのだ。

 この機能が搭載されるまで、Mac OSは、まずは英語版が作られ、それを日本語用にローカライズしていた。このため日本語版が出てくるのはいつも数カ月遅れで、しかも場合によっては互換性で問題が生じることもあった。しかし、WorldScriptが搭載されたことで、Mac OSは世界中どこで発売されているOSでも、OSの基本部分は同じ、ということになったのだ。

 後にアップルは海外仕様のMac OSに日本語機能を追加する「Japanese Language Kit」、中国語を追加する「Chinese Language Kit」、アラビア語の「Arabic Language Kit」、ロシア語などを扱えるようにする「Cyrillic Language Kit」などの別売を開始する。

 1つのOSで、これだけいろいろな言語を扱えることは、大きな強みだ。世界70カ国以上で展開する雑誌「Readers Digest」などはこの点を評価してMacを大量導入した。

 ちなみに現在のMac OS Xは、これをさらに押し進めて、たった1種類のパッケージで全世界をカバーしているのはご存じの通りだ(フランスで買ったMac OS Xも韓国で買ったMac OS Xも、パッケージが違うだけで、中身も発売日も同じだ)。

Mac OS関連用語

GomTalk、WorldScript、Japanese Language Kit

漢字Talk 7.1――ディスク26枚構成のヒミツ

 System 7.1の日本語版は「漢字Talk 7.1」と名付けられた。同OSを買ってパッケージを開いた人は、まずフロッピーディスク26枚組という構成に驚かされた。

 今日のMac OS Xは、ヒラギノという美しい書体の標準添付が特徴となっているが、漢字Talk 7.1は、標準環境だけで、日本語の文書を美しい文字で書き表せるOSで、7種類の日本語アウトラインフォントが付属していた。

 System 6まで、Mac OSにはビットマップフォントを表示する機能しかなかった。ビットマップというのは、あらかじめ決まったサイズでしか表示できないフォントのことだ(無理矢理大きなサイズで表示しようとすると、ひどいギザギザになる)。

 Adobe Systemsが開発したPostScriptという技術に対応するプリンタを持っていれば、印刷した時だけきれいに文字が表示される。アップルはこのPostscript技術を提供するAdobeや、「PageMaker」というレイアウトソフトを作るAldusと組んで、Desktop Publishing(DTP)という巨大な市場を築いた。

 DTP市場では、PC用フォントが非常に高い資産価値を持つようになっていったが、この市場はAdobeがほぼ独占しており、PostscriptのライセンスもAdobeが押さえていた。

 こうした状況に危機感を感じたアップルは、マイクロソフトと手を組み、Adobeの技術に対抗する「TrueType」というフォント技術や、Postscript対抗の「TrueImage」という技術を開発する。

 TrueImageは結局ほとんど陽の目を見なかったが、一方のTrueTypeはSystem 7から採用され、7種類のTrueTypeフォントが標準添付となった。

 これにあわせるように漢字Talk 7.1では、リョービの提供する本明朝、丸ゴシック、平成明朝、平成ゴシック、モリサワ提供の細明朝(リュウミンライト)と中ゴシック(中ゴシックBBB)、そしてアップルのOSAKAフォントの計7種類の日本語TrueTypeが付属することになり、これがフロッピーディスク26枚組という驚きのパッケージ構成を生み出したのだ。

Mac OS関連用語

関連キーワード:TrueType、TrueImage、Type 1、ATM(Adobe Type Manager)

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