「Kindle」は何も新しくない、「iPad」ならではの表現を目指す:「元素図鑑」作者インタビュー(後編)(3/3 ページ)
「元素図鑑」の作者であるセオドア・グレイ氏が、今後目指すべき電子出版ビジネスやアップルCEOであるスティーブ・ジョブズ氏の人柄などについて語った。
ジョブズは厳しいが理不尽ではない
――インタビュー冒頭で、スティーブ・ジョブズとの長い関係について語っていただきましたが、最後にジョブズ氏の印象やエピソードを聞かせてもらえますか。
グレイ 申し上げたとおり、私はNeXT社員でもないのに、NeXTのオフィスに仕事場がありました。なので、NeXTには知り合いが大勢います。
1996年末にアップルがネクストを買収しましたが、あれは実質的にネクストによるアップルの取り込みと言ったほうがいいと思います。
事実、1997年には、アップルの重役のほとんどはネクストの友人でしたし、今ではMac OS Xの開発で使うAPIコールが、必ず「NS」から始まっていますが、これも「Nextstep」の名残りです。
こうしたこともあり、私はアップルとは非常にいい関係を保ってきました。アップル自体も我々を頼っています。例えば、私は2005年のWorld Wide Developers Conferenceの基調講演に登壇しています。
――Macのインテルプラットフォーム移行発表の時ですね。
グレイ そうです。アップルにいきなり呼ばれ、何も見ない、何も聞かないで、3日間でプログラムをインテル版に移植する――そんなことをしても、会社にとってたいしたメリットはありませんが、それでも、そうした無理難題を引き受けて、しかも外部に秘密をいっさい漏らさない。そんなことをしてくれる会社は、なかなかほかにないのでしょう。
――ジョブズ氏に対する個人的な印象はどうでしょう。
グレイ みんな彼のことを“ヒドイ奴”だといいます。でも、彼は少なくとも私のことは気に入ってくれているようで、非常に親切にしてくれています。もちろん、彼が怒り狂っている様子は確かに見たことがありますが、そういう姿を見ていると、私がいるウルフラム・リサーチのスティーブ(共同創業者のスティーブ・ウルフラム)に似ていると思えてしまいます。
彼らは2人とも、非常に高望みな経営者で、相手がどんな人物であろうと、くだらない売り込みやお世辞などは一切通用しない、厳しい人物です。ただしその一方で、非常に頭の回転が速く、スマートで、それが性格のキツさを帳消しにしてくれています。
そして何事に対しても中立で、ある特定の意見にこだわり続けるようなことはしません。もし彼が何かの意見を頑固に固持し続けることがあるとすれば、おそらくそれは正しくて、聞く価値がある主張なのです。
世の中には、ただ何の考えもなく、譲るのがいやなだけで意地を通す不条理な人が大勢いますが、そんな人物よりはよっぽどいいと思います。
狂気が生み出す美しさ
グレイ それに、これを見てください(そういってiPhone 4を取り出す)。非常に美しいですよね? こんなもの、ほかに誰が作るんでしょう。ここまで美しいモノを作り出すには、少しくらいの“狂気”が混じっていないとできないと思います。
ほかの会社が、“実用的そう”に見えて誰も使う人がいないモノを乱造している中、アップルはまるで未来からやってきたような、どうやって使うのかも、どんな可能性を秘めているかも分からないけれど、とにかく欲しくなってしまうようなモノを次々と生み出しています。
こうしたモノ作りには、確かにジョナサン・アイブらデザイナーの活躍もあるのでしょうが、最後にすべてを監督して決断を下しているのはジョブズです。彼が「この製品は究極に薄くする」「USBポートはいらない」といった決断を下しているのです。
そして気がつくと、家電業界はみんな、彼が作り出したものを必死に真似して追いかけ、スマートフォンとスレート型コンピューターを乱造しています。しかし、どのメーカーもアップルの立ち位置に近づくことすらできません。IBMやHPも同様の製品を作っていましたが、製品を発表する前に開発を中止してしまいました。iPhoneやiPadが発表されたことで、「後からこんなモノを出しても意味がない」と気づき、また企画室の真っ白なホワイトボードから出直すことに決めたのです。
こんなことを言うと、私のことをアップルの“飼い犬”だと言う人もいるかもしれません。でも、これってすべて本当のことだと思いますよ。
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