連載

2013年のタブレットを冷静に振り返る本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

昨年はタブレットのサイズバリエーションが広がった1年だったが、今年はWindows PCがタブレットにより近づく動きが目立った。タブレット市場のトレントを振り返りつつ、個人的に印象深い製品を挙げていこう。

明確になってきた各プラットフォームの位置付け

 すなわち、“タブレット”としてひとくくりに製品ジャンルを分けているが、その中身は画面サイズの大小、コンテンツプレーヤー指向かプロダクティビティ(生産性)指向かという2つの軸で、この年末のタブレットはカテゴリが分かれているということだ。

 また、それぞれのカテゴリは相いれない面がある。例えば、ミニタブレットがピッタリと思っている人には、(いくら優れた製品でも)10型のタブレットはしっくり来ないだろうし、シンプルにアプリケーションサービスとつながりたいユーザーにキーボード操作の善し悪しについて語ってもピンと来ない。

 少なくともiPadとWindowsタブレットは、同じタブレットでもジャンルが明らかに異なる。それ故、この2つの選択で迷うことは現時点ではほとんどないはずだ。

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 「iPadを使いたい」と消費者が考える1番の理由は、スマートフォンではなくタブレットの画面だからこそのユーザーインタフェースを指向したアプリが充実しているからだろう。

Windows 8.1では、ドキュメントのデフォルト保存先がSkyDriveになっている。SkyDriveを介し、Windows 8/8.1デバイス間で設定の同期を行うことが可能だ

 また、「Windowsタブレットを使いたい」と消費者が考えるとするならば、その理由は「Windows PCで行う作業もタブレットで実行したい」が1番ではないかと推察される。OSに統合されたSkyDriveを使えば、他のWinodws 8.1搭載PCでの作業を引き継いで出先で対応する場合などにも特別な運用の工夫なく、うまく連携できる。

 一方、位置付けに関して悩ましいのは、Androidタブレットだ。「Androidタブレットを使いたい」と消費者が考える、典型的な例はあまり思いつかない。Androidタブレットは、端末のタイプで言えばiPadに近い。スマートフォン分野におけるAppleとGoogleのライバル関係を考えるならば、Androidタブレットも同様に“ガチンコ勝負”と言いたいところだが、残念ながらそこまでには至っていないと思う。

 昨年のNexus 7(2012)で期待していたのは、世界的に売れまくったことで、タブレット画面に最適化したアプリの絶対量が増え、ユーザーインタフェースの質も高まることだった。そのもくろみ通り、Androidタブレットのエコシステムは1年前よりもずっと進歩した。

値上がりしたとはいえ、「Nexus 7(2013)」のコストパフォーマンスは依然として高い位置にある

 端末メーカーもさまざまな工夫はしているものの、それでもまだAndroidタブレットを意識して選択する理由は多くない。また、(2013年版になって相対的な魅力が薄れたとはいえ)Nexus 7(2013)のようなコストパフォーマンスの高い汎用端末が存在することも、このプラットフォームが停滞している原因を作っているのではないだろうか。

 しかし、“Androidならでは”という分野も、徐々に定着しつつある。それは一昨年、昨年そして今年と進化してきた「Kindle Fire」シリーズが示している方向だ。オープンソースのAndroidを活用し、自社が提供するサービスと統合してしまうという考え方である。これはiPadやWindowsタブレットにはマネできない。

 Kindle FireシリーズはGoogle Play非対応だが、例えばNTTドコモの「dtab」はサービスとの統合とシンプルなユーザーインタフェース、そして1万円切りの低価格で独自の魅力を引き出している。

プロセッサの進化が支えたタブレットの進歩

 さて、前記のようなことを踏まえつつ、実際に発売された製品を思い返してみよう。

 今年もiPadを中心としたサービス、アプリのプラットフォームは他社からの追撃を受けずに済んでおり、そうした意味では新ハードウェアがどんなものであれ、Appleの優位性は大きく変化しなかったと思う。しかし、今年のiPadは“製品の成熟”というフェーズではあるもの、そのデキはよいものだった。

薄型・軽量化が大幅に進んだ9.7型の「iPad Air」。厚さは7.5ミリ、重さは約469グラム(Cellularモデルは約478グラム)だ

 とりわけ、高精細ディスプレイを搭載し、プロセッサのパフォーマンスを大きく向上させながら、薄型・軽量化が大幅に進んだ「iPad Air」が素晴しい仕上がりになっていることは言うまでもない。「iPad mini Retinaディスプレイモデル」もほんの少し厚くなっただけで、高精細ディスプレイ化と性能向上を果たしている。

 しかし、「新しい何かを生み出しているか?」という視点で見ると、確かに今年はあまり大きな進化はなかった。あくまで従来の延長線上にある最善の製品を最新性能のパーツを駆使してまとめ上げたに過ぎず、イノベーションから遠ざかって久しいと感じる人もいると思う。

 それよりも、今年のタブレット進化における注目点はプロセッサの進化に依存する部分が大きい。AppleがARMv8アーキテクチャの命令セットに対応する64ビット化を思い切って進めたことで、これから数年、改良を進めていく“ヘッドルーム”が大きくなった。Appleが何らかのイノベーションに向け、次のステップに踏み出すのは、プラットフォームの64ビット化が落ち着く2014年後半ぐらいではないか、と予想している。

富士通の10.1型Windows 8.1タブレットであるARROWS Tab QH55/Mは、防水(IPX5/7/8)と防じん(IP5X)にも対応する

 また、Bay Trail-T世代のAtomプロセッサが、消費電量あたりのパフォーマンスでとうとう最新のARMプロセッサに追いついたことも大きい。実際にBay Trail-Tを搭載する「ARROWS Tab QH55/M」などを手にしてみると、初めて使う方は、そのパフォーマンスのよさに驚くのではないだろうか。大抵のPC用アプリが快適にサクサクと動作しつつ、サイズや発熱、バッテリー消費などはARMプロセッサ並なのだ。

 とはいえ、Intelプロセッサとの互換性が必要ではない分野……すなわち、Windows以外のプラットフォームでは、積極的に使う理由がないため、このままの構造が続くのであれば、長期的にはIntelの付加価値が失われていき、衰退につながっていくことになる。Androidへの投資を行っているIntelだが、そこに「同社ならではの差異化要因を生み出せるか?」というと疑問もある。

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