人気機種のアクセサリで勝手に商売、メーカーはなぜ怒らない?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
PCやスマホ、タブレットが新しく発売されると、それに合わせてサードパーティ各社から周辺機器やアクセサリが発売されるのは、この業界ではすっかり見慣れた光景だ。本体メーカーは、自社製品に関係する製品を勝手に作って売られても怒らないのだろうか。
サードパーティによって不利益を被った本体メーカーが応戦するケース
では、こうした例には当てはまりにくい、本体メーカーの不利益になるケースとはどういったものだろうか。比較的話題になることが多い、2つの事例を見ていこう。
1つはプリンタの「互換インク」だ。度々ニュースでも取り上げられているのでご存じの方も多いと思うが、サードパーティーが発売しているインクジェットプリンタの互換インクは特許侵害などを理由にプリンタ本体メーカーから度々販売停止を求める訴訟を起こされている。
これら訴訟では互換カートリッジを製造、販売したのが問題ではなく、チップをコピーしたという特許侵害が争点となっているが、結局のところは利益の源であるインクカートリッジを他社にかすめ取られるとビジネスが成立しなくなるという思惑があることは否定できない。単に互換品を発売しているだけで訴えて勝つのは難しいため、特許侵害を表に立てているわけだ。また互換インクは品質的に問題のある製品も多く、本体の故障につながるケースも多いことから、プリンタメーカー側が対策に乗り出すのは当然と言える。
これに対して互換インクのメーカーは、消費者に対してコストの安さのほか、エコロジーであることをアピールするほか、逆に互換インクを認めないことは独占禁止法の違反であるとして公正取引委員会に申し立てたりと、真っ向勝負の様相を呈している。
その結果はともかくとして、本体メーカーとサードパーティ各社が互いに敬意を払いながらWin-Winでビジネスを展開する前述のモデルケースとはかけ離れた、利益を奪い合う血みどろの戦いとなってしまっているのは、誰の目にも明らかだ。サードパーティによって不利益を被った本体メーカーが応戦した典型的なケースといっていいだろう。
もう1つはiPhoneやiPadなどの「MFi認証を取得していない互換ケーブル」。MFi認証はケーブルに限らずさまざまな周辺機器に対応するAppleの認定プログラムだが、MFi認証を取得していない粗悪な互換品の流通量が多いのはケーブルだ。
MFi非認証の互換ケーブルが幅を利かせるようになると、単に純正品の売上が減るといった問題にとどまらず、品質が粗悪なことから、接続した機器の故障などにつながる。ケーブルの場合、いったんパッケージから出してしまうと、MFi認証済みかそうでないかの見分けがつきにくいため、ユーザーは認証のない粗悪なケーブルが原因で起こった故障であっても、本体メーカー、つまりAppleを疑うことになる。これもサードパーティの製品で本体メーカーが不利益を被るパターンの1つだ。
こうしたことから、現行のLightningケーブルでは、OSのバージョンアップの度にチップが書き替えられ、使えなくなる仕組みが搭載されている。従来のDockケーブルでは効果が限定されていたため、独自仕様のコネクタの採用を機に締め付けを厳しくした格好だが、それがかえってコスト増を招き、MFi非認証の互換ケーブルとの価格差を際立たせているのは皮肉な結果だ。
MFi非認証の互換ケーブルは安価であることから、いまだに「次のOSバージョンアップまで使えればよい」と割り切って、手にするユーザーが少なくない。長い目で見ればユーザーが自分自身で首を絞めている格好で、嘆かわしいことだ。
Apple製品は世界的に見てもシェアが高く、そのサードパーティ製品の流通量は半端ではない。それゆえ、先の互換インクのように法廷の場に持ち込むには件数が多すぎて現実的ではなく、ガイドラインをベースに粗悪品を排除しようとしているわけだ。実際のところ、利益を守るために行っている点においては何ら違いはない。やり方が穏便かそうでないかの違いだけだ。
ほかにも、意匠権の侵害などで本体メーカーからサードパーティに警告書が届き、仕方なく生産終了となるケースは、見えないところでは頻発している。そもそもPCの周辺機器やアクセサリは、本体のデザインや色に似せれば似せるほど売上が伸びるので、ついついやりすぎてしまい、一線を超えるというわけだ。
サードパーティ製の周辺機器やアクセサリで、「売れているのにある日いきなり店頭から姿を消す」「後継製品に切り替わったが、デザインが明らかに退化している」といった場合、裏でこうしたやりとりがあることが意外と多い。
どちらにとってもメリットが多い、本体メーカーとサードパーティの共存関係
以上見てきたように、本体メーカーのスタンスは「自社の不利益になれば問題あり、そうでなければ問題なし」というものだが、少し違ったパターンとして、本体メーカーが自ら純正アクセサリを用意している場合もある。
例えばノートPCのメーカーが専用のバッグや保護ケースをカタログに載せて販売していたり、通信キャリアが独自パッケージのスマホケースを直営店で売っているといった事例だ。この場合、サードパーティが同じ本体用のアクセサリを発売しても問題ないだろうか。ここまでの話からすると、自社製品の売上を阻害することにつながるため、NGになりそうなものだが、実際にはOKというケースが多い。
その理由は、先にも挙げたラインアップの問題だ。純正のアクセサリはサードパーティの製品ほどの品数を取りそろえるのが難しく、ラインアップ的にもたかが知れている。それゆえ、あくまで純正品であることを求めるユーザーにのみ販売できればよいという立ち位置で、少数のユーザーを相手にがっつりと利益を確保できれば、「後はサードパーティさん好きにやってください」というスタンスになる。直営店で売る場合は、流通ルートがまったく異なっているので、バッティングしにくいというのも理由の1つだ。
実際のところ、本体メーカーの系列ディーラーが本体を売る際、こうした純正品ではなくサードパーティ製をバンドルして売ることも多く、どこも純正品にこだわるよりは、選択肢も多く価格もこなれたサードパーティ製品を、現実的な落しどころとして選びがちである。
もちろんサードパーティの中には問題行動を起こしがちな会社もあり、本体メーカーからの信頼度はピンキリだが、全般的に見ると本体メーカーとサードパーティの共存関係というのは、どちらにとってもメリットの多い、自然な流れだったりするのだ。
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