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妙に店頭でプッシュされる製品、果たしてベストな選択なのか?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

量販店の店頭で目立つ「この製品売れています!」という貼り紙。そう言われると気になってしまうが、売れているからといって、必ずしも製品が優れているとは限らない。そこには、販売店が特定の製品を優先的に売るようになる仕組みが隠されているのだ。

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本質的な評価とは関係なく、優先してプッシュされる製品にご用心

 しばらく前のことになるが、Amazonが一部出版社をひいきしているという報道があった。好ましい取引条件を締結している出版社のタイトルを、Webサイト上の目立つ位置でプッシュし、そうでない出版社と差をつけているというのである。

 この件、ネット上ではなぜかAmazonをたたく風潮が見られたが、取引先とどれだけ懇意にしているかで売り場における扱いの大小が変わるのは、商習慣的には当たり前のことだ。もしそれを責めるのであれば、取引先に応援販売や協賛金といった負担を要求し、それによって売り場での製品の扱いに差をつけている量販店などは、それ以上に責められてしかるべきだろう。

 もっとも、製品そのものの評価と別のパラメーターによって、ある製品がプッシュされたりプッシュされなかったりが決められるのは、確かにユーザーにとって気持ちが悪い。製品の露出の多い少ないだけで済むならともかく、選択肢そのものが切り捨てられてしまうとなれば、ユーザーはそのことを念頭に置いて製品を選ぶべきだ。

 今回は、主に家電量販店とPC周辺機器/サプライのメーカー間で行われているやりとりを事例に、必ずしも優れているわけではない製品が「イチオシ」になり、その他の選択肢が切り捨てられるプロセスを見ていこう。

優先的に売ってもらう決め手は「協賛金」

 ある量販店が、あるメーカーの特定の製品をプッシュする場合、その多くには協賛金が絡んでいる。例えば特売などにおいて、チラシ上での扱いの大きさや位置、または店頭における陳列位置などは、協賛金の額の大小によって決められるのが通例だ。

 量販店はメーカーに対して、「協賛金を支払うことでライバルメーカーに対して優位に立ち、店頭での販売数量を伸ばしましょう」という提案を持ちかけ、その結果としてチラシ上で大きく扱ったり、エスカレーター前など目立つスペースを優先的に割り当てる。製品そのものに際立った特徴がなく、競合品が複数のメーカーから出ているような状況下で、なぜか特定のメーカーの製品だけがプッシュされるのは、往々にしてこのパターンだ。

 上記のように書くと、販売店によるあくまで任意の提案に思われるかもしれないが、メーカー側から見て、費用対効果を考慮したうえで、今回は協賛金を支払う、次回は支払わない、といった選択の自由は事実上存在しない。

 バイヤーから「これをプッシュするからこれだけの協賛金を支払って」と計画に沿って持ちかけられれば、メーカーとして断ることは難しい。いったん断った場合、次回同様に声がかかる保証はないからだ。この辺りは、量販店側にその意図はなくとも、メーカー側としては強制されていると受け取りがちな典型的な事例である。

 またこれとは別に、特売ではない通常の定番販売において、優先的に扱ってもらうために協賛金が支払われるケースも多い。定番品のうち優先的に販売される製品には「特推」や「拡販」などの呼び名が付けられ、あるジャンルの製品について客から問い合わせがあった際に競合製品を差し置いて紹介されるなど、量販店も積極的にプッシュする。

 その代わりに、販売数に応じた協賛金が、メーカーから量販店に対して支払われるシステムだ。ちなみにこれらの製品は、ポイント還元の割合も高めに設定されるので、客の側としても選ぶモチベーションが高い。

 この「優先販売」製品には本部のバイヤーによって販売目標数量が設定され、店側に割り当てられるので、末端の店員は自身があまり気に入らない製品でも売らざるを得ない。たとえ売上目標を達成していても、「優先販売」製品の目標が未達であれば叱責されるため、わざわざ競合製品をプッシュする酔狂な店員は少ない。

 メーカーが応援販売で店頭に立ったときも「優先販売」製品を売るよう強制されるばかりでなく、中には自社の製品と競合するにもかかわらず、他社の「優先販売」製品をおすすめするよう指示されることもあるほどだ。

 これだけの威力を持った「優先販売」ゆえに、本部商談をするメーカーの営業担当者の責任は重大だ。特に過去に「優先販売」で実績が出ている場合、今回も「優先販売」枠に入らないと対前年比で売上が激減するので、先方提示の価格条件と数量条件が年々きつくなっても飲まざるを得ない。言わばドーピングのようなものである。

 売り場がそれほど広くない低ランク店舗であれば、「優先販売」に指定されていない製品は店頭に在庫を置くこと自体がNGの場合もあるので、メーカーにとってはまさに死活問題というわけだ。

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