96chスピーカーが“気配”まで再現――世界初の没入型聴覚ディスプレイ装置「音響樽」に驚いた:第1回 先端コンテンツ技術展
世界初という没入型聴覚ディスプレイ装置「音響樽(たる)」を体験してきた。
東京ビッグサイトで7月1日から7月3日まで開催された「第1回 先端コンテンツ技術展」では、さまざまな最新没入型コンテンツの展示が行われた。
そんな会場の一角に、なにやら巨大な“樽(たる)”が鎮座している。これは、東京電機大学が出展した世界初の没入型聴覚ディスプレイ装置「音響樽」だ。同大学と九州大学、明治大学、情報通信研究機構(NICT)の共同研究グループが開発中の音響樽は、人が入れる巨大なたるの中に、96個ものフルレンジスピーカーを張り巡らせ、音の3次元波面を再現する。耳元でささやくような声や音源が頭上を通過したり近づいたりといった「まるでその場に自分がいるかのような感覚」を聴覚で得られる。
実際に音響樽の中に入って試聴してみた。ドアを開けて中に入り、中央に置かれた椅子に腰掛ける。96個のスピーカーに囲まれ少々圧迫感を感じながらも、しばらくすると再生が始まる。すると、まさに驚きの一言。オーケストラや古典芸能の音声は、実際に広いホールの中に自分がいるかのような錯覚に陥り、あまりの迫力に恐怖感を覚えるほど。森林の環境音では、遠くで鳴く鳥のさえずりで鳥の位置が分かるだけでなく“鳥がその場にいる”感覚を味わうことができた。
また、試聴の途中でスタッフがドアをノックし、「マイクの調整を行う」と声をかけてきた。筆者は「開発中だし仕方ないな」と思いながらも、人が何かを調整している気配を確実に感じていた。ところが、それもあらかじめ収録されたもので、完全にだまされてしまった。
音場の収録は、円形(フラーレン構造)のフレームに80個のマイクロフォンを取り付けたフラーレンマイクロフォンを使用する。従来のサラウンドシステムでは音響エンジニアが空間的な味付けをすることによって、「ある方向から音が聞こえる」といった音の聞こえる向きの再現をすることができたが、本技術では音場をフラーレンマイクロフォンによって波面レベルで収録し、音響樽の96chスピーカーによって物理的に実際の音場と同じ状況を作り出すことで、音源の気配まで再現できるという。
応用分野としては、遠隔地にあるコンサート同士でのアンサンブル演奏や、ハイレベルなオーディオルーム、自然環境音による癒やし空間の構築など用途は多岐に渡るという。VRヘッドセットの「Oculus Rift」(オキュラス・リフト)と組み合わせれば、映像と音響で非常にハイレベルな没入型コンテンツの制作が期待できそうだ。
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