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スマホで覇権を握れなかったIntelの生きる道第7世代Coreは出たものの……(2/3 ページ)

1万2000人もの人員削減、次期Atomプロセッサの中止、ARMとの提携など、戦略の岐路に立つIntel。同社は今後どこへ向かおうとしているのか。

IoTなど組み込みの世界へ注力

 1つ目の「成長分野」とは、IoTなどのセンサー技術を含む組み込みの世界だ。IDF 2016では「Project Alloy」と「Joule(ジュール)」が披露された。

 Project Alloyは仮想現実(VR)に対応したヘッドマウントディスプレイ(HMD)だ。Windows連載記事の中でも触れているが、2017年後半の登場予定で「Windows Holographic」に対応する。最大の特徴は、正面に内蔵されたRealSenseカメラが撮影した立体映像をVRに取り込めることで、例えば自分の手を仮想空間に映し出して作業が可能だ。


Intelの「Project Alloy」はRealSenseの3Dカメラを組み込んだVR HMDだ

目の前の風景を仮想現実世界に投写できるため、例えば自分の手を撮影して仮想空間内で作業することも可能だ

 Jouleは「Edison」や「Curie」に続く組み込み型モジュールで、Edisonよりも幾分かコンパクトながらよりパフォーマンスが向上している点が特徴となる。壇上のデモでは拡張現実(AR)を使った画像投写が可能なメガネ型デバイスにJouleを搭載し、作業員がメガネ上に映し出される情報に沿って作業できるような産業向けのシステムが紹介された。

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Intelの組み込み向けモジュール「Joule」。Edisonの後継となる

壇上のデモではグラス型デバイスを使ってARによる作業員向けの手順を示すシステムが紹介されていた

 このほか、ドローン向けの組み込みプラットフォームや、RealSenseをモジュール化してロボットなどへの搭載を容易にした開発キット「Intel Euclid」も発表しており、モノ作り市場をにらんだ施策を次々と打ち出している。

必ずしも盤石ではないサーバの世界

 前出のように、Inteにとって収益の大きな源泉はサーバ分野にある。PCアーキテクチャをベースにしたサーバで動作するアプリケーションがあり、ここにXeonを供給することで寡占とも呼べる市場を形成してきた。

 しかし現在、この市場が揺らぐ素地が形成されつつある。PCクライアントがそうであるように、市場そのものがいきなり縮小することはないだろうが、クラウド化の進展とともに大規模データセンターを運営するのが特定企業へと集中し、市場のパワーバランスが変わることが予想されている。

 特に不穏な動きを見せているのがGoogleで、IBMとのサーバ向けプロセッサでの協業のほか、TensorFlowなど深層学習に適した専用処理プロセッサ「TPU(Tensor Processing Unit)」の開発など、「データセンターでの最適化はユーザー(である企業)自身が最もよく知っている」と言わんばかりの勢いだ。

 実際、従来ながらのPCベースのアプリケーション環境を離れることで、クラウドの世界ではこうした動きが今後も加速する可能性が高い。そのため、大規模データセンターを運営するための仕組みを整備し、さらにGoogleのTPUのような最適化ソリューションまでカバーできることをIntelはユーザーに示さなければならない。


クラウド化の進展でデータセンター需要が大手インターネット企業に集約されつつある中、米国の通信事業者であるAT&Tはこれら7社を総称して「Super 7」と呼んでいる

IDF 2016の基調講演では、Super 7の1社となる中国の「百度(Baidu)」からシニアバイスプレジデントのワン・ジン氏が登場。深層認識や、それを通して実現されるコグニティブサービスの現状を説明した

 IDF 2016で紹介された「Rack Scale Design v1.0」はデータセンターをスケールしつつ、プロセッサなどのリソースを最適な形で配分する仕組みを提供し、「Silicon Photonics」はチップ間のインターコネクトを電気信号ではなく光通信としてシンプルに行う手段を提供する。

 特に後者のSilicon Photonicsは、Intelが何年も技術開発をアピールしていたものだが、2016年の夏になりようやく出荷にこぎつけた。現状、パフォーマンス的には既存技術を置き換えるものではないが、将来的な高速化で効率的なデータセンター運用を見込んでいる。


出荷済みであることが報告されたSilicon Photonicsだが、今後のアップグレードに期待といった状態だ

 また、データ処理を効率よく高速化する手段として「Xeon Phi」の次世代版である「Knights Mill」を2017年に投入することを発表したほか、Alteraの買収を経て得たFPGA技術のXeonへの統合などが行われている。

 IntelではIDFの会期中に「Intel SoC Developer Forum」というイベントも併催しており、Alteraの顧客らに対して今後も継続的な製品サポートを続けていく意向を示し、開発者らの取り込みを狙っている。

 一見するとデータ処理の高速化という点で似ているXeon PhiとFPGAだが、前者がOpenCLのようなプログラミングモデルが中心なのに対し、後者はVHDL(VHSIC Hardware Description Language)を使って論理式を記述していく、どちらかといえばASICのような専用プロセッサの設計を行う仕組みだ。

 当然、求められる技術スキルや適用分野も異なっており、この辺りの技術者やリソースをどのようにIntelに取り込んで市場を大きく盛り上げていくかが大きな課題となる。

 これが2つ目の「既存の分野を徹底的に伸ばす」だが、やはり成果が見えるようになるまで5~10年程度の期間は必要だろう。つまり、現在のIntelは5~10年先の変化を見据え、生き残れるかの賭けに出ていると言えるかもしれない。


Knights MillことXeon Phiの次期バージョンが2017年に登場することを予告

従来までCPUとFPGAが別個に存在することでパフォーマンス上のボトルネックとなっていたのが、SoCとして統合される

統合によって、10倍以上のパフォーマンスを実現可能になるという

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