人気モデルの「世界○カ国で先行販売」に日本が入らない理由:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
人気のスマホやゲーム機では、まずある国や地域で発売し、そこが一段落したら別の国や地域で発売するという、いわゆる先行販売のシステムがよく用いられる。これは生産数の限界ゆえにやむを得ずそうなっているように見えるが、実際にはさまざまな事情が関係していることもしばしばだ。
品質にうるさくローカライズも面倒な日本は先行販売に向かない?
この他にも、先行販売システムのメリットは幾つかある。前述の在庫転用による欠品調整ほどのウェイトは高くないが、どれもメーカー側にとっては切実な理由だ。まとめて挙げておこう。
1つは、特定の国や地域に絞ることで、物流コストが圧縮できることだ。どれだけ大量のオーダーが入っていようが、メーカーにとってその製品が本当にヒットするかは不確定要素が大きく(量販店が盛り上がって大量注文しているだけで消費者は全く盛り上がっていない可能性もある)、なるべく局地的に売っておいた方が大事故にはなりにくい。
万一製品のロット不良などが発生した場合も、回収や交換などの対応を迅速に行うには、地域は限定されていたほうが対応が容易になる。
また先行販売によって世界各国に順番に投入していくことで、ローカライズも優先順位を付けて行うことが可能になる。
最近はワールドワイドに展開する製品は多言語のメニューを持っていることが普通だが、まだ内容がFIXしていない状態で多言語化を行うのと、発売後の指摘なども取り入れて1つの言語が完全FIXした状態で多言語化を行うのとでは、後者の方がたやすいし、費用も抑えられる。先行販売で最初に展開する国を決めてしまえば、こうしたことも可能になるというわけだ。
そしてもう1つ、先行販売システムでは、製品の販売ノウハウが得られやすいという理由もある。先に発売した国での反響を見て製品の仕様やソフトウェアを改良し、後発の国で投入することが可能になるので、後から発売する国でのクレームを最小限に抑えられるというわけだ。
この場合における日本の扱いは、2通りのパターンがある。日本は品質に非常に厳しいがゆえに、最初に日本で発売してクオリティーを高めた後に全世界で投入した方が効率的にとする見方もあるし、それとは全く逆に、いちいち品質にうるさい日本は後回しにしてまずは現段階のものを世界的に流通させ、優れた製品であるという世論を先に作り上げてから日本に持ち込んだ方が受け入れられやすいという見方もある。
このどちらが正解かは議論のあるところだが、昨今ますます一般的になりつつあるクラウドファンディングのように「まずは世に出すことが第一」という考え方が徐々に浸透し始めると、品質にうるさくローカライズも面倒な日本は先行販売に向かないとして後回しにされるケースは、今後増えることはあっても、減ることは少ないだろう。
今はまだ一定の市場規模が見込めることで踏みとどまってはいるが、日本のユーザーにとってはお先はあまり明るくない状況と言えそうだ。
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