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2018年、ユーザーインタフェースに真の革新が始まるか鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/3 ページ)

コンピュータUIの世界はCUIからGUIへの移行で利用者のハードルを下げることに成功し、タッチUIはそれをさらに簡易で直感的なものにした。一方で「コンピュータに逐次命令する」という利用スタイルは、CUIの時代から変化していないが、それがいよいよ変わる時が来るかもしれない。

 年末年始に帰省して実家で正月休みを過ごされている方も少なくないだろう。帰省すると、普段の生活と実家のIT環境が違うことで、もどかしく感じることはないだろうか。

 生活が便利になる(はず)のITテクノロジーを、こうした分野に関心が高くない実家の家族に導入して使い続けてもらうのは(その後のサポートも含めて)意外に難しい。

PC、スマホ、そしてスマートスピーカーを実家に導入した結果

 筆者の実家では、これまで段階的にPCやスマートデバイスの導入およびアップデートを進めてきた。最近では既にサポートが終了したWindows Vistaの置き換えのためにWindows 10搭載ノートPCを導入したり、2010年購入の「iPad」も新モデルへと世代交代したりした。

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 父親は相変わらず礼状の送付や調べ物にPCを使い続けているし、母親は実家で所在のなくなりつつあったiPadをWeb検索や地図検索用のツールとして便利に活用するようになった。PCは腰を据えて触らないといけないが、iPadは手軽に取り出して使えて動作もシンプルということで好まれているようだ。

 とはいえ、既に年老いた両親のこと、最先端のツールはヘビーに使うものでもないため、この現状で満足しているようだ。

 そんなある日、7年ぶりにITデバイスのニューカマーを実家に持ち込んでみた。Amazon.comのスマートスピーカー「Amazon Echo」だ。


実家に届いたAmazon Echo。居間のテーブルに置いてみた

 早速開封し、居間の中心部にあるテーブル上にセットアップ。スピーカー本体を付属のACアダプターにつなぎ、手持ちのスマートフォンにアプリを導入して自身のアカウント情報にひも付けるだけ。「アレクサ(Alexa)」という呼び掛けに反応し、きちんと日本語で天気情報などを受け答えする様子に両親は非常に感心していたようだ。

 筆者はその後、出張で2週間ほど海外に行くため、Echoの簡単な利用方法だけを両親に伝えて実家を離れた。ところが戻ってみると、Echoの姿はどこにもない。聞けば「使い道が分からない」との理由で、本体や付属品を梱包(こんぽう)し直して、丁寧に元に戻した状態で納戸にしまっておいたのだという。

 振り返れば、7年前にiPadが初めて家にやってきたときの風景がそうだった。それがEchoで再現されたわけだ。なぜ、Echoは操作が簡単にもかかわらず、実家に受け入れられなかったのだろうか。

スマートスピーカーは実際どう使われているのか

 Amazon Echoをはじめとするスマートスピーカー製品については、米国市場で盛り上がり始めた2016年後半以降に本連載でも何度か取り上げている。しかし、実際のところ筆者の周辺では(本人を含め)使っている人がほとんどおらず、利用実態があまりつかめないでいた。

 2017年6月にAppleの開発者会議「WWDC 2017」でSiri対応スマートスピーカー「HomePod」が発表された直後、同業者であるジャーナリストの西田宗千佳氏、サンフランシスコ在住のエンジニアであるドリキン氏と卓を囲む機会があった。


AppleのSiri対応スマートスピーカー「HomePod」は2018年初頭に米国などで発売の予定(日本での発売時期は未定)

 そこで西田氏は米国でのユースケースとして「主に(ストリーミング配信を利用した)音楽の聞き流し」であり、HomePodはその市場を狙った高級スピーカーであると指摘している。一方のドリキン氏は普段からEcho製品を使っている立場から、その用途は「音楽」「タイマー」「電気のオン・オフ」などが主であり、Appleの狙いという部分で西田氏の意見に賛同している。

 いずれにせよ、現状のスマートスピーカーはストリーミング音楽配信に依存している部分が大きく、メーカー側がうたうほどには他のコンテンツや機能の活用には結び付いていないという分析だ。

 残念ながらHomePodは2017年内にリリースされず、一説では途中まで生産されていたものを全て破棄して再調整に入ったという話も聞こえてきており、本当にAppleの狙いが正しかったのかを検証する術はない。

 興味深いのは、スマートスピーカーのデモストレーションを行うとき、やはり西田氏のいうように音楽ストリーミングを流すケースが多いことだ。

 例えば、筆者は2017年11月初旬に取材で米サンノゼにあるWestfield Valley Fairモール内のMicrosoftストアを訪ねたが、そこには発売直後の「Invoke」が展示されていた。

 InvokeはMicrosoftとHarman Kardonが提携して製品化したスマートスピーカーだ。Windows 10標準のAIアシスタント「Cortana」に対応したスマートスピーカーでは初めて発売された製品となる。

 店内で興味深げにInvokeを眺めていると、店員が寄ってきて「デモ見ていきます?」と尋ねてくる。デモをお願いして店員がInvokeのCortanaに向かって命令したのは「お勧めの音楽をかけて」というものだった。

 やはり米国での基本的なユースケースは、スキルを活用していろいろとスマートスピーカーの機能を拡充するよりも、リモートから音楽を手軽に再生することの方が一般的なのかもしれない。


Westfield Valley FairのMicrosoftストアに展示されていた「Invoke」。平日昼ということもあるが、人はまばらだった

 翻って実家でのユースケースをみると、時間がなかった中でのセットアップであり、最低限の基本機能(天気予報、ニュース読み上げ、タイマーや時間確認など)しか使えない状態で、できることは非常に限られていた。それに両親は音楽を聴く習慣がほとんどないため、恐らくストリーミングサービスとひも付けても使うことはなかっただろう。

 しかも、あえてスピーカーに話し掛けてまで使う機能(スキル)もその時点では導入しておらず、あえて使うシーンもなかったのだろう。故に、最初にiPadが実家にやってきたときと同じ飾り物(Echoは箱に梱包されてしまっているが……)扱いとなったのだ。

 もっとも、特定の使い方での便利さが理解され、Echoならではの使い方が生活に浸透するようになれば、実家でのポジションも確立されるようになるのかもしれない。

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