引きこもりを加速する企業 クラスターが狙う「VR時代の空間」ビジネスとは?:西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(3/3 ページ)
連載「世界を変えるVRビジネス」の第1回は「引きこもりを加速する」をスローガンに掲げ、バーチャルイベントのプラットフォームを提供するクラスターに話を聞く。
現実のコンサートやカンファレンスを「マネしない」世界へ
クラスターは、コンサートホールやカンファレンスを模したサービスになっている。この点は、海外の同種のサービス、例えば、Oculusの「Oculus Venus」なども同様だ。
だが、加藤氏は「これは今だけ」と話す。
「輝夜月ちゃんのコンサートでも、『ライブ会場の汗臭さや音圧の感じなどが再現できるのか』といえば、当然できません。でも、VRで現実のライブに似せるのは、スマホにおけるスキュモーフィズム(現実にあるものを模したUI)と同じですよね。分かりやすさ重視で、まずはユーザーに受け入れてもらおうという戦略です」
「そもそも、VRは『別空間』なんです。Virtual=実質ですから(筆者注:“仮想”と訳されることが多いが、英語の本来の意味は“実質的な”に近い)、全く新しい体験になっていい。音楽ライブは、もはや『音楽ライブ』とはいえない、電子ドラッグとでもいうようなものになっていいはず。要は、価値を提供する人の想像力、イマジネーションをどこまでぶつけられるかということです」
「カンファレンスも同じです。今のカンファレンスは、会場の物理的制約からああいう形になっていますが、もっと参加した人たちのアクションが飛び交うような、インタラクション性の高いものでいいと思っています」
「また、コンサートでは、100人それぞれに『最適化した体験』を届けることもできるはずです。今は席で体験が変わりますが、誰もが『良い席』の体験もできる。最終的には、場所ではなく、その体験を生成するノウハウを売らないといけません。そうすれば、コピー不能な価値になりますからね」(加藤氏)
加藤氏は「今はVirtuality(実質性)の時代」という。情報革命といわれるが、情報がまとまり、適切に提供されることによって「本物と同じではないが、実質的にこれでもいい」という時代だ。19世紀以降、産業化によって人とモノは「動く」ことでビジネスが成立してきた。それは今も続いているが、さまざまなものが「実質化」することで、動く必要が減っていく。VRとともに多くの要素が「演算で生成される」ようになると、無駄は減らせる。
「だから、引きこもりは合理的なんですよ」と加藤氏は笑う。だが、これから狙うところは違う。「でも、最適化は僕たちの目指すところではないです。なぜなら、『無駄とぜいたく』は同義だから。無駄も産業になります。体験って、そういうことですよね」
そこで、現実を模したものから全然違う「VRの中でしか体験できないハコ」に変わっていくこと、そのノウハウを提供する会社になっていくことが、クラスターの目標だ。「だから、『引きこもりを加速する』は、キャッチーであるがゆえに社外向けスローガンではあるのですが、会社のミッションは別。『Accelerate the Human Creativity』、人間のクリエイティビティを加速することが、私たちの真のミッションなんです」(加藤氏)
最終着地点が「想像できないようなライブ」ならば、確かにそのためには、クリエイティビティは「加速」されなければ実現できない。
関連記事
「ポケモンGO」はより現実に溶け込んでいく AIと共有技術で世界をプラットフォーム化するNianticの戦略
「ポケモンGO」をはじめとする世界規模の位置情報ゲーム開発で知られるNiantic。同社の位置情報やARの技術革新、そしてそれらを活用したプラットフォーム戦略とは?VRChatの住人に聞く「現実は不便」のリアル(後編) 「リア活」を引退宣言したDJ SHARPNELの挑戦
活動の場をバーチャル化すると宣言し、2017年4月の「UPSHIFT」を最後に現実世界のライブから撤退したDJ SHARPNEL。なぜVRでライブアクトなのか?VRChatの住人に聞く「現実は不便」のリアル(中編) 女の子の寝顔がカワイイ「VR睡眠」の魅力
未来に生きてんな……VRChatの住人に聞く「現実は不便」のリアル(前編) バーチャルはリアルと置き換えられる
「現実というワールドが不便になってきたので、みんなバーチャルで過ごそうよ」観測せよ、世界はそこにある! Oculus Riftで人の作りし「世界」へ
現実を忘れるOculus Riftの魅力。あざといなさすがLat式あざとい。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.