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引きこもりを加速する企業 クラスターが狙う「VR時代の空間」ビジネスとは?西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(2/3 ページ)

連載「世界を変えるVRビジネス」の第1回は「引きこもりを加速する」をスローガンに掲げ、バーチャルイベントのプラットフォームを提供するクラスターに話を聞く。

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クラスターと他社はどう違うのか

 世界を見回すと、VR空間内で会議やカンファレンス、イベントスペースなどを提供するサービスは意外と多い。数人単位でのコミュニケーションならば「VRChat」のようなチャット系サービスが人気だし、ドワンゴがインフィニットループと合弁で設立した「バーチャルキャスト」も、VRでの生配信空間を提供する、という意味では似ている。

 「SHOWROOM」のような双方向ライブサービスにも「東雲めぐ」のようなバーチャルタレントがおり、類似性がある。もはや昔話の域だが、2000年代中頃にブームとなった「セカンドライフ」も、3Dのアバター同士で対話する場所を提供する、という意味では似ている。

 クラスターの特徴は、非常にスケーラビリティが高いことだ。数人での会議から数十人のカンファレンス、果ては「Zepp VR」のような、数千人単位でのコンサートまで対応できる。

 VRならば人数の制限など関係なさそうに見えるが、実際はそうはいかない。サーバ負荷やネットワークの帯域、参加者同士の情報同期などが問題になり、今の「仮想世界」は残酷なまでに混雑に弱い。Zepp VRでの輝夜月コンサートが「席数限定」で販売されたのは、そうした事情を反映してのことである。

 とはいえ、競合のVR系チャット・カンファレンスサービスは、数人から数十人、多くても数百人までを想定しているが、クラスターはシステム上、最大5000人までとなっている。

 「少ない人数も多いものも、本質的な価値に差はないと思うんです。別に小さな規模のコミュニティーを攻める形でもいいと思います。それではなぜ大人数のものをやるのか……うん、僕の『趣味趣向』ですね。僕個人の、今やるなら『まだ存在しない』のだから、でかいところを攻めよう、という考えです。アバターを介したソーシャル空間の中でどこを抑えるかを考えると、結局のところ、一番大きいポジションを取りにいきたいし、影響力のでかいことをしたい」

 「カンファレンスが意外と大きいのは、単価が高いからです。私たちが注力すべき部分は、この一番でかいところです。この3つなら、まずは相性が抜群にいい『音楽』から」(加藤氏)

 輝夜月のコンサートが行われることになったのも、「音楽という大きなところを押さえに行こう」という発想が関係している。2017年末以降、YouTuberのバーチャルボディー化=VTuberという形で「バーチャルタレント」ビジネスが盛り上がっていたが、そこにクラスターとしてどう乗っていくのか、という過程で、「一番大きく見せるにはどうしたらいいか」(加藤氏)と考えていたところ、関係者と方向性が一致し、コンサートの開催に至った。

 だからこそ、世界初・日本初クラスの出来事である、「バーチャルタレントによる数千人規模のライブ」の成否には、非常に神経を使っている。

 「プレッシャーでもありますね。今回の成功・失敗が、日本全体でのバーチャルタレントのマーケット構築を、1年単位で遅らせたりする可能性があるわけですから。そのくらいのインパクトがあることをやっていると自負しています」(加藤氏)

 そしてもう一つ、他のサービスとクラスターが違うところがある。それは「対称性」だ。チャット系のサービスは、利用者同士が同格・対称な存在としてデザインされている。だがクラスターは、規模に関わらず、「演者」と「聴衆」の関係が存在する。

 「クラスターは、『パフォーマー側』と『オーディエンス』が分かれる設計になっています。VRでのコミュニケーションは面白いのですが、『対称』だと、一部のギークしか使わないものになりやすいです。どうしても、お互いにコミュニケーションをしなくてはならないので。ビジネスを加速させるためには、『価値交換が発生する仕組み』が必要です」

 「それは、お金のやりとりじゃなくてもいいんです。『いいね』でも、コメントでも。グルーブのようなアナログ感でいいのですが、明確に定量的でないと把握できません。利用者同士の関係がフラットなものでは、価値の交換が発展しにくいだろう、と思うのです。だから、『パフォーマー側』と『オーディエンス』は分かれた方がいい。もちろん、将来はこの形に限りません。しかし、まずはしっかり『商業スペース』としてのクラスターを提供しないといけない、と思います」(加藤氏)

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