デジタルの絵が持つ、完全に地上から消えてしまうというイメージも嫌いじゃない――寺田流「デジタル絵画の変遷」:寺田克也さんに聞く(3/4 ページ)
イラストレーター/漫画家の寺田克也さんが『寺田克也SKETCH』を出版した。そこに至るまでの道のりや、デジタル作画~データの保存についてお話を伺った。
iPad ProとApple Pencilの登場で一気に覆った
その後、PCの性能は加速度的に上がっていったが「Mac、板タブ、Painter」の3点セットで作業をするのは同じだった。
MacBookが登場してワコムのタブレットも小型化したため、ノマドワークも徐々に可能になっていった。
「ドラスティックな変化があったのは、iPad ProとApple Pencilの登場だよ」
寺田さんはそもそもiPadが好きで、バージョンアップをするたびに買い替えるくらいだったという。
「遊びで指を使って絵を描いてたけど、筆圧も利かなくて効率が悪かった。メインの仕事道具にはならないな~と思っていたけど、Apple Pencilの登場で一気に覆った」
iPad ProとApple Pencilが発売されたのは、2015年だ。
「Painterに代わるアプリがあれば仕事になるなと思ったんだけど、その頃にはProcreate(Savage Interactive)が仕事で使えるアプリになっていた。発売当時、アプリの値段は600円くらいで『まじかよ?』ってなった」(2021年8月5日現在はApp Storeで1220円)
「例えばアナログの鉛筆と紙は誰でも安く買える。素人の人もそれで絵が描けるし、その同じ道具でプロも仕事ができる。それと同じようなことで、デジタルで絵を描くことのハードルが低くなったってことだよね」
100万円のPCを購入し、10万円のアプリを購入し、板タブレットを購入してやっとスタートラインに立てた時代に比べると、10万円強でプロの道具がそろえられる現代は非常に恵まれている。
「オレにとっての絵を描くベーシックが紙と鉛筆で、そこへ近づけば近づく方が良い道具だと思ってる。iPad ProとApple Pencilの描き味はそこにだいぶ近づいているって感じはあるね」
寺田さんは当面、iPad Pro、Apple Pencil、Procreateの3点セットでデジタル絵を製作していくのだろうか?
「たぶんねー。考えられる未来はOculus Questみたいなのが進化して、バーチャル空間で作業するというのはあるかもしれない。VRマシンも大きめなサングラスくらいになってくれたら、ソファーに口を開けて座りながら、5m×8mの巨大な壁に壁画を描いたりとかできるかも。まだ技術的には遠いけど、そういう世界は来るんだろうなと思ってる」
寺田さんは近頃、趣味の立体造形もiPad Proで作っているという。
「Nomad Sculpt(Stephane Ginier)ってアメリカの3Dモデリングアプリで遊んでいるよ。昔だったら、1回ぐいっとひねったらしばらく待たなきゃいけなかったけど、今はストレスなくグイグイ使える。このソフトはいいよ。大した値段じゃないのにやたらと高機能。ちょっと恐ろしさを感じるくらいだよね(笑)」(App Store価格は1840円)
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