「Arm版Windows 11」でゲームは楽しめる? Steamのタイトルを試して分かったこと(3/3 ページ)
Microsoftの「Windows 開発キット 2023」は、Arm版Windows 11のアプリケーションを開発するためのPC……なのだが、作業の合間にゲームをしたいという人もいるだろう。しかし、ArmアーキテクチャのPC上で、Intelアーキテクチャ向けのゲームタイトルは動くのだろうか……? 「Steam」で購入できるタイトルから、実行できそうなものをいくつか試してみよう。
NieR:Automata
さて、ここからはネイティブ環境でも負荷が少し高めとなるタイトルに手を出していこう。
「NieR:Automata(ニーア オートマタ)」は、2017年にスクウェア・エニックスが発売したアクションRPGである。開発はプラチナゲームズが手がけている。
宇宙人が繰り出す機械生命体に地球を侵略され、人類が月へ敗走したはるか未来が舞台で、プレイヤーはアンドロイド部隊である「ヨルハ」所属の「2B」を操作し、地球を取り戻すために戦うといった作品で、ちょうど先日まで、TVアニメも放映されていた人気作品である。
Steam版はDirectX 11ベースで開発されている。そのためWindows 開発キット 2023でも動きそうに思える。実際、タイトルメニューが表示される直前までは何事もなく進む。
しかし、メニューに進む直前で、どうしてもゲームが強制終了されてしまう。何度試しても同じタイミングでつまずくので、このタイトルはArm版Windows 11では正常にプレイできないようである。
Satisfactory
最後にプレイするのは、2019年にCoffee Stain Studiosがリリースした一人称視点のオープンワールド工場建設ゲーム「Satisfactory」だ。
主人公は未開の惑星に単身で降り立ち、探検や開拓をしながら資源を集めて機械や建物をクラフトし、それらを組み合わせて工場を建設していく。
Satisfactoryは、今回紹介したゲームの中では一番処理負荷が大きい。Windows開発キット2023で正常に遊べるのか非常に気になるので、いろいろと試してみることにする……のだが、試す前に1つ気を付けないといけないことがある。
このゲームはDirectX 11とDirectX 12の両方に対応している。先述の通り、Arm版のWindows 11はDirectX 12を利用できないため、ゲームをプレイする前にオプション画面で「Graphics API」を「DirectX 11」に切り替えておく必要がある。
SatisfactoryのSteam(Windows)版は、DirectX 11とDirectX 12の両方に対応している。Arm版Windows 11で遊ぶ際は、「Graphics API」を「DirectX 11」に切り替えよう
このゲームでは、デフォルトの描画設定が全て「Ultra(最高)」に設定されている。正直いって、かなり“強気”である。
この状態で動くかどうか試してみたのだが、お察しの通り重すぎて全く遊べない。平均フレームレートは11fps程度である。とはいえ、「エミュレーションでも平均で11fpsも出せるのか!」と別の意味での驚きはある。
これではマズいので、各種描画設定を「Medium(中設定)」にして改めて試してみる。すると、平均フレームレートは20fpsくらいまで改善した。
「改善した」とはいうものの、これではカクカク感が残るため、快適にプレイできない。TV放送や一般的なゲームがターゲットとする平均30fpsは出せないと厳しい。
「こうなったら……」ということで、今度は各種描画設定を全て「Low(最低)」にして試した。すると、平均フレームレートが30fps程度に向上し、ようやく違和感なくプレイできるようになった。
ただし、描画オブジェクトが増えるとフレームレートは20fps程度に低下してしまう。また、描画範囲が狭くなるため、オープンワールドゲームらしい壮大さが削がれてしまうことも事実である。
「痛しかゆし」ではあるものの、ここまでやれば一応は遊べるレベルになる。
さて、ここで今更ながら、Satisfactoryの最小稼働要件を確認してみよう。
- OS:Windows 10以降(64ビット)
- プロセッサ:(4コア4スレッド/3.4GHz~3.8GHz)
- メモリ:8GB
- グラフィックス:Dedicated GPU(GeForce GTX 770/2GB)
- ストレージ:15GB以上の空きスペース
ここでポイントなのが、グラフィックス(GPU)の最低要件が「GeForce GTX 770 2GB」となっていることである。Windows 開発者キット 2023でx64ゲームを動かすと、どうしてもエミュレーションに伴うオーバーヘッドが生じるのだが、それなりに性能の良いGPUが求められるゲームを、フルHDかつ平均30fpsでプレイできたことはすごい。
「本当に快適か?」と言われると微妙なところだが、Windows 開発キット 2023の能力(と、Arm版Windows 11のx64エミュレーション機能の出来の良さ)には非常に驚かされた。
結論:軽くて古めのゲームなら十分すぎるほどにプレイ可能
最初に試したPortalではグラフィックス描画に難が生じ、NieR:Automataはメニューに進む前に落ちてしまったものの、Windows 開発キット 2023は使うAPIが古めの軽量ゲームであれば十分にプレイできるといって良さそうである。
ただし、冒頭でも述べたが「DirectX 12は非対応」「OpenGL 3.3以上は非対応」「Armに最適化されていないアンチチートプログラムが組み込まれていると起動不可」と、Arm版Windows 11におけるゲームプレイには制約が多い。また、Portalのように動いたとしても描画に問題が生じるタイトルもある。あくまでもゲームプレイは「おまけ」「できたらラッキー」と考えよう。
そもそも、Windows 開発キット 2023は、Arm用のWindowsアプリを簡単かつ効率的に作成するためのPCである。ゲームをプレイすること自体、本来の想定とは離れた使い方となるので、そこは致し方ない。
ただ今後、macOSのようにArmネイティブアプリの開発が広まり、「Surface Pro X」のようなArm SoCを搭載したPCが増えれば、ArmネイティブなWindowsゲーム開発も進むかもしれない。
そんな未来も、それはそれで面白そうだ。
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