インタビュー

創業111周年を迎えたシャープのターンアラウンド 技術を軸にエッジAIで他社と連携も CTO兼R&D担当役員に聞くSHARP Tech-Day(2/5 ページ)

シャープが操業111周年を記念し、イベント「SHARP Tech-Day」を開催する。本イベントの狙いやこれまでの取り組み、そして未来への挑戦を同社常務執行役員 CTO兼R&D担当の種谷元隆氏に聞いた。

技術の説明はいらない お客さまの「価値」を重視

―― 今回、展示する40テーマはどんな切り口から選んだものですか。

種谷氏 ひと言でいえば、「ゲームチェンジができる技術であるか」ということに尽きます。2023年夏に、全ての技術拠点を回り、展示する40テーマの2倍以上の数の技術に関して説明を聞きました。

 優れた技術もあり、高度で難しい技術もありました。また、研究部門ですから、シーズオリエンテッドによる成果も数多くあります。これらを含めて、ゲームチェンジできる技術かどうかという観点から選びました。

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 中には見直しを行い、後から入れ替えた技術もあります。ゲームチェンジを掘り下げて考えると、技術そのものの難しさはポイントではありません。難しい技術を誇るための展示会にはしません。実は技術者には、展示会場では「技術の説明はいらない」と言っているんです。

―― 技術の展示会なのに、技術の説明をしないとは(笑)。

種谷氏 正確にいうと、独自性があることや、どんな価値があるのかを伝えてもいいが、その部分を技術的に説明しなくてもいいと言っています。もちろん、来場者が技術に詳しい人であり、技術的な部分の話を聞きたいということであれば、しっかりと説明はします。

 しかし、私たちがSHARP Tech-Dayで一番伝えたいのは「価値」です。技術者の夢や志は、技術そのものを開発することではなく、その技術を使って、これまでにできなかったことを実現し、それによって社会に貢献することです。ですから、SHARP Tech-Dayではその部分をしっかりと訴求してほしいと技術者に伝えました。

 技術だけでは、誰もお金を払ってくれません。そこに価値を感じてもらい、活用したいと思ってもらうことで、技術に対価を払ってもらえます。極論すれば、価値を対価につなげるスピードを上げることが、今後のシャープの浮沈を左右するともいえます。SHARP Tech-Dayは、そのための技術展示であるというわけです。

 もう1つ今回展示する技術には、出口の柔軟性を持たせたいと考えています。技術者自身が当初、想定した技術の使い方にこだわりすぎてしまったため、可能性を狭めてしまうといったことはときどき起きています。ゲームチェンジの意識を持っていないと、出口のチャンスを見逃してしまうことになりかねません。そこで、出口の可能性を模索する展示や説明を行ってほしいと技術者には要望しています。ゲームチェンジができる価値を伝えながら、さまざまな出口を模索したいと思っています。

 私も技術者ですから、どうしても技術の話で盛り上がってしまうことが多いのですが(笑)、その状態を私がリードしてしまうと、お客さまに伝わるものも伝わらなくなってしまいます。私が、お客さまの価値や技術の応用の話を8割ぐらいするように意識すれば、現場の意識は、ちょうどいいバランスが取れるのではないでしょうか(笑)。当社は、もともとお客さまの「価値」を重視する会社ではありますが、SHARP Tech-Dayをきっかけに、その意識を改めてリマインドしたいと思っています。

―― シャープではゲームチェンジャーテクノロジーとして、「AI」「ロボティクス」「XR」「6G」「食・水・空気」「カーボンニュートラル」「宇宙」を掲げています。SHARP Tech-Dayでも、これらを網羅した展示が行われることになりますか。

種谷氏 当社は8K+5Gを中心に技術力を高め、IGZOを始めとした液晶技術や、LTE/5Gなど通信技術、空気清浄機などの家電に搭載しているプラズマクラスターイオン技術、AIoTプラットフォームを活用したつながる家電などを提供してきました。

 これらの技術の蓄積は、今後の当社の成長にとって大きな資産になります。それに対して、「AI」「ロボティクス」「XR」「6G」「食・水・空気」「カーボンニュートラル」「宇宙」によるゲームチェンジシャーテクノロジーは、世の中の変化を捉えたもので、今後、力を注いでいく領域であるともいえます。

 今回の展示では、AI/カーボンニュートラル(グリーン)/食・水・空気を中心に、ゲームチェンジャーテクノロジーを網羅した形で、新たな未来の価値を提案することになります。当社は、安心/安全/リラックス/健康/環境といった分野が得意であり、いわば「心拍を静かにする」ところで、価値を提供することができる企業だといえます。その観点からも、多くの新技術をお見せできます。


スタートアップとも積極的に連携して開発していくという

 また、ゲームチェンジャーテクノロジーに共通しているのは変化が激しく、同時にAIとの関連性が強い領域であるとい点です。ですから、ここではオープンイノベーションが重要になります。今回のSHARP Tech-Dayでは、オープンイノベーションの取り組みにおいて、ギアを一段変えて、スタートアップ企業との関係を進化させ、AIの技術を加速させていきます。

 当社は、もっと積極的に外部の知見や技術を活用しなくてはいけません。また、国際標準化への取り組みや、数多くの知的財産を持つ強みがありますから、これらの知見は、スタートアップ企業との連携においても活用したいと考えています。

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