「Apple Vision Pro」発売から1カ月 新しい驚きの「プラス」と「マイナス」を考える:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)
米国でApple Vision Proが発売されてから1カ月。発売と同じタイミングで入手した筆者も、Apple Vision Proと過ごして1カ月となる。このデバイスから得られる驚きは、プラスとマイナスの両面があり、今後の「空間コンピューティング」の在り方に影響を与えそうだ。
Apple Vision Proは「モチベーション」をかき立てる?
アプリに視点を移すと、現時点で入手できるApple Vision Pro向けのアプリの多くには“既視感”を覚える。ほとんどが本体の発売前から開発していたものなので、ある意味では当然だ。
しかし思い返すと、どんな形であれ、新しいコンピュータが製品として投入された当初は、新しいアプリが全く存在しないことは珍しいことでもない。今でこそたくさんアプリのあるiPhoneも、2007年に発売された当初はアプリのインストールすらできなかった。サードパーティーのアプリが流通し始めたのは、その翌年に投入された「iPhone 3G」で「App Store」が導入されてからだ。
「携帯電話にアプリを導入する」ということ自体は、当時から珍しいことではなかった。しかし、その機能や性能には制限があり、PCのように自由度が高いアプリが使えるiPhoneはとても斬新だった。
そんなiPhoneのアプリも、当初はどこか既視感のあるものが多かった。斬新なものがあったとしても、実用性がなかったり、面白さだけを狙ったりした“アイディア勝負”の
ネタアプリだった。Apple Vision Proの現状と大差なかったと記憶している(初めからアプリを利用できるだけ、Apple Vision Proはマシともいえる)。
アプリの開発者からは「日本未発売のデバイス(Apple Vision Pro)のために、アプリを書く人なんているの?」「まだ普及してもいないデバイスのアプリに、開発費を掛けたところで利益を出せるの?」という意見もある。しかし、iPhoneにおけるApp Storeも、当初は大きな売り上げを期待できるようなものではなかった。
では、なぜこれほどiPhoneのアプリが充実したのか。それはiPhoneがもたらすであろう未来をポジティブに受け取り、自ら新しい価値を作りたいと思った開発者がたくさんいたからだ。
最終的に収益につながればもちろんベストなのだが、そもそもイマジネーションをかき立て、新しいクリエイティブを生み出す――そんなプラットフォームだからこそ、開発者は魅力的に感じたのだろう。
「現時点でのアプリに既視感がある」「デモンストレーションとしては面白いが、役に立たない」といった感想を持たれたとしても、実はあまり大きな影響はない。最も重要な事は、Apple Vision Proが目指す世界観にワクワクして、新しいアイデアを実現するためのプラットフォームとして、これまでのコンピュータではできないことができると開発者に信じてもらうことだ。
App Storeは、iPhone 3Gの発売と同時にサービスが始まった。WindowsやMac OS(当時)でもおなじみのアプリが多く並んでいたが、それよりも「これまでのプラットフォームではできなかったこと」が実現できるのだというアピールが大切なのだ
それこそが開発者のモチベーションであり、高いモチベーションこそがイノベーションをもたらすのだと、毎日Apple Vision Proを使って感じていることでもある。
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