「Apple Vision Pro」発売から1カ月 新しい驚きの「プラス」と「マイナス」を考える:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)
米国でApple Vision Proが発売されてから1カ月。発売と同じタイミングで入手した筆者も、Apple Vision Proと過ごして1カ月となる。このデバイスから得られる驚きは、プラスとマイナスの両面があり、今後の「空間コンピューティング」の在り方に影響を与えそうだ。
Apple Vision Proを買ってから1カ月 変化したワークフロー
こうした快適とはいえそうにない「ゴーグル」を毎日使い続けることができるのか――多くの人は、Apple Vision Proに対して疑問を抱くだろう。実際のところ、筆者も使い始めた頃は「こんな重たいデバイスを毎日装着することはないだろう」と思っていた。
しかし、実際に使い始めると意外と快適なのだ。空間内に自由にディスプレイを配置して、自分の家の中の部屋の至るところに資料を貼り付けておけるのはよい。
PCの画面を開き、Webを見て、メールをチェックして、返信を書き、1日のスケジュールを確認して、行動の予定を再確認する――これまでであれば、これが朝のルーティンワークだった。
もちろん。Apple Vision Proでもほとんど同じことを行っているのだが、トラックパッドも使わなければキーボードも使わず、ほとんどを視線入力と音声の入力だけで行えている。もちろん現在はシステムは日本語に対応していない上、音声入力も英語しか受け付けることができない。しかし、幸いにもMacBook Proと連携できるため、メールの返信はMacBook Proを開き、そこで音声入力をすることで賄っている。
以前の記事でも触れた通り、Apple Vision Proはそもそも、「空間の中にアプリの画面を自由に配置できるiPad」というイメージだ。たくさんのiPadを手元に持っていて、そのiPadの画面を天井から吊るしているようなイメージといえば分かりやすいだろうか。
Webの情報、SNSのクライアント、受信しているメールの一覧などが部屋の至るところに貼り付けられていて、それを眺めながら、何をすべきかを判断して、優先順位を決めて処理をしていく――やっている事は従来と大きく違いがなかったとしても、情報を俯瞰(ふかん)する能力は確実に向上しているように感じている。ある意味でワークフローが変わったともいえる。
実際にはこの情報全体を俯瞰してどのように行動するのかを決定する部分がApple Vision Proで最も変化した部分かもしれない。
エンターテインメント体験の高さは想像以上
もちろん、Apple Vision Proだけで全ての仕事を完結させているわけではない。
例えば、PCの画面を空間の中に表示して、複数の大画面で仕事をし続けることに憧れている読者もいるかもしれないが、一時的には便利でも、1日中使えるというわけではない。快適性はまだそこまで上がっていない。
しかし、集中して作業をしているときには、実はこの快適性に関する問題は気づかない程度で、そうした意味ではこのデバイスがあと少しの進化でもっと実用的になることを示しているように感じている。
例えば、最初のレビューにも書いたように、この製品のエンターテイメント体験の質の高さは格別だ。数万円クラスのレーザーホームプロジェクターがもたらす、高画質の映像エンターテイメントの世界。こうしたホームシアターには同じく高額なサラウンドのシステムが必要になる。
Apple Vision Proの画質は、ハイエンドのホームシアター機器を使い、本物のシアターと同じような暗い内装を整え、完全に遮光をして、その上で高品位なサラウンドオーディオの環境を整えた場合に匹敵する体験をもたらしてくれる。
こればかりは体験してみないと実際にどのぐらいなのか分からないだろうが、質の高い映像作品をApple Vision Proで体験していると、時間を忘れてしまう。装着感のことも同様だ。
しかしながら、このことは視点を変えるとApple Vision Proと同等の品質を実現できなければ一般ユーザーに幅広く受け入れられる製品にはならないという気もする。それまでにどれぐらいの時間が必要なのか、小さくない課題となるだろう。
今回出てきた製品が、本来「最低でも100万円以上の価格をつけなければ利益を確保できない」製品だとするならば、少なくとも4年ぐらいは普及が難しいかもしれない。
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