PC畑を歩んできたエプソン販売の栗林社長が改めて「お客さま」本意の方針を掲げる理由:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(3/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第14回は、エプソン販売の栗林治夫社長だ。
徹底してオペレーションを磨き上げたPCビジネス
―― 顧客に寄り添うといった姿勢に加え、PCビジネスを通じて他に学んだ要素はありますか。
栗林 もう1つは、オペレーショナルエクセレンスです。オペレーションを磨き上げることは大切なことであり、これがビジネスの強さに直結することを学びました。エプソンダイレクトはWebで注文を受けると、そのまま生産工程にデータが流れ、1日でカスタマイズしたPCを生産し、出荷できるという体制を整え、これが大きな差別化になっています。
修理受付も同様で、土日も含めて1日で対応し、お客さまの業務ダウンタイムを最小限に抑えています。徹底してオペレーションを磨き上げた結果、スピードを価値にすることができた事例の1つです。この考え方はエプソン販売全体にも広げていきたいと思っています。デジタルを活用して無駄なものを省き、業務を改革して、それを強みにしたいと思っています。
―― PC事業での苦い経験はありますか。
栗林 失敗ばかりですよ(笑)。エプソンダイレクトで営業責任者をしていたとき、低価格戦略から、特定業務に価値提案をしていく方針を打ち出しました。その際に、医療分野で錠剤などを分包する専用機のコントロール端末の商談に、エプソンダイレクトのタブレットを提案しました。
高価な専用機のコストダウンをしたいというお客さまの要望もあり、軽い気持ちでこの提案を受けたのです。しかし、実際に商談を進めてみると、錠剤の分包機では、周辺に静電気が発生しやすく、そうした利用を想定していない汎用(はんよう)タブレットでは、静電気対策という点では完全ではありませんでした。効果的な静電気対策のために、独自に研究を行い、試行錯誤の結果、分包機といった特定領域にも汎用タブレットで対応することができました。
これは、お客さまに教えていただいたことでニーズを理解でき、専用領域においても汎用的なデバイスで、お客さまに役立てることが分かったという点では大きな成果でした。ただ、結果としては、プラスに働きましたが、どこまでできるかが分からずに受けたわけで、半年間に渡ってお客さまのご協力を得て、ようやく完成することができたものです。
純粋に考えれば、そういったノウハウが蓄積していないものだったわけですから、安易に受けてはいけない商談だったかもしれません。その点では反省すべき失敗ですが、このような経験をして課題を乗り越えたことで、その後、大手薬局にも提案できるようになりましたし、業務を止めてはいけない領域に、専用機ではなく汎用機で提案し、業種特化戦略を加速するきっかけになったともいえます。
お客さまとの深い対話を通じて、PCやタブレットが、どのように使われているかを知ることできましたし、私たちがどこまでお客さまに貢献できるのかも知ることもできました。また、その後は、商談の入口で、どこまでできるのかといったことを検証し、本当にお客さまにお役に立てるのかといったことを見極めています。
―― 現在のエプソンダレイクトのPCの強みはどこにありますか。
栗林 エプソンダレイクトでは引き続き、特定業務向けPCビジネスに力を注いでいます。これは、エプソンダイレクトが、課題解決において最も貢献できる分野であり、価値が発揮できる分野です。
この基本戦略は変わっていません。既に4割近くが特定業務向けビジネスです。PC市場は、2025年10月にWindows 10の延長サポートが終了し、それに伴う買い替え需要が発生します。また、AI PCといった新たな市場の創出が期待されています。そうした需要にも最適なPCを提供していきます。私自身、長年取り組んできた事業ですから、エプソン販売の社長になっても気になる事業の1つです。ちょっと多めに口出ししちゃうかもしれませんね(笑)。
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