「こんなハズでは……」 理論性能は良いのにベンチマークスコアが奮わない? 「モンスターハンターワイルズ」にピッタリなGPUの選び方(1/4 ページ)
まもなく発売される「モンスターハンターワイルズ」のPC版ベンチマークテストにおいて、「性能が良い」とされるGPUでスコアが奮わないという現象が見受けられる。その理由を考察しつつ
最近の大作PCゲーム(いわゆる「AAAタイトル」)では、理論性能が高いGPUを備えるPCでも、想定通りのパフォーマンスが出ないことが多い。逆に、タイトルによっては理論性能がそこそこなのにパフォーマンスが良好なこともある。
最近であれば、カプコンがSteam経由で配信を開始した「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」が、このような事象の“好例”となっている。いいスペックのGPUを用意したのに、どうしてこうなるのか――特にPCゲーミング初心者は、「なんでこうなるの?」と頭を抱え込んでしまうかもしれない。
そこで2回に分けて、このような現象が起こる“理由”を解説した上で、「2025年に快適なPCゲーミングライフを送るためのGPUの選び方」を伝授していく。今回は解説編だ。
「Radeon RX 7600」よりも「PS5 Pro」のGPUの方が強い?
2024年11月に発売されたソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の新型据え置きゲーム機「PlayStation 5 Pro(PS5 Pro)」では、APU(GPU統合型CPU)に搭載されたGPUコアのピーク時の処理(演算)性能が16.7TFLOPSと公表された。
発表時、世間ではこの性能に近いPC向けGPUに注目が集まった。PS5 ProのAPUを供給するAMDでいえば、「Radeon RX 7600」(22TFLOPS)、あるいは「Radeon RX 7600 XT」(23TFLOPS)がほぼ同等スペックということである。NVIDIAであれば、「GeForce RTX 4060」(15TFLOPS)や「GeForce RTX 4060 Ti」(22TFLOPS)あたりということになるだろう。
そうした世間の関心を検証すべく、筆者は別のメディアに対して「Windows(OS)代込みで、PS5 Proと同じくらいの予算(=12万円)で買えるゲーミングPCの自作」という記事を提案し、実際に掲載された。製作の模様はYouTubeにも掲載している。
この「12万円自作PC」の主なスペックは以下の通りで、理論的にはPS5 Proよりも性能は良いはずである。
- CPU:Ryzen 7 5700X(8コア16スレッド)
- GPU:Radeon RX 7600
- メモリ:16GB×2(DDR4-3200 UDIMM)
- ストレージ:Crutial P3 Plus 1TB(PCI Express 4.0接続)
WindowsとPlayStation 5(PS5)の両方にリリースされていて、かつPS5 Proに最適化されている「PS5 Pro Enhanced」指定タイトルでもある「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」と「Horizon Forbidden West」の2タイトルを用いて両者のパフォーマンスを比較してみると、興味深いことが起こった。
自作PC(Radeon RX 7600)では、グラフィックス関連設定オプションを「中」品質設定として、AMDの超解像技術「FSR(FidelityFX Super Resolution) 3」を有効化すると、、4K(3840×2160ピクセル)解像度でフレームレートは15~20fps程度となる。フルHD(1920×1080ピクセル)にすると、40~60fpsまで向上するといった感じだ。
一方、PS5 ProではSIEの超解像処理「PSSR(PlayStation Spectral Super Resolution)」が有効な状態において、シーンによっては50fps程度まで落ち込むものの、ほぼ4K/60fpsを維持できていた。
繰り返すが、理論上の性能は自作PCの方が上だ。しかし、実際に動かすとPS5 Proが“圧勝”するのである。
今話題の「モンスターハンターワイルズ」もPS5 Proの方が有利?
さらに、WindowsとPS5に提供されていた「モンスターハンターワイルズ」のβテスト版でも検証した。2024年11月初旬にリリースされたβ版は、時期が時期ということもあってかPS5 Proに対する最適化が行われていなかった。
この状態でも、PS5/PS5 Proの両方において、高品質なグラフィックスにそこそこのフレームレートで楽しめた。PS5 Proでは最適化未了、つまりPSSRが使えないのにPS5比で20%ほど高いフレームレートだった。この際の様子は、YouTubeに動画として公開しているので参照してほしい。
「じゃあPCではどうなんだ?」というところだが、12万円自作PCに組み込んだRadeon RX 7600では、グラフィックス品質プリセットのうち「最低」と「低」しか選べなかった。低設定の場合、FSR3を適用するとフルHD解像度なら60fpsを維持することができ、WQHD(2560×1440ピクセル)解像度だとほぼ60fps(シーンによっては50fps程度まで落ち込む)といった具合だ。
このことを踏まえて、1世代古いものの理論性能的にはRadeon RX 7600とほぼ同等な「Radeon RX 6800 XT」(21TFLOPS)を同じPCに装着して試してみた。こちらは最上級のプリセット「ウルトラ」を選択可能で、ウルトラ設定でFSR3を適用することで4K解像度においてほぼ60fpsを維持できた(シーンによっては50fps程度まで落ち込む)。
以下のスクリーンショットは、それぞれRadeon RX 7600とRadeon RX 6800 XTで実行したモンスターハンターワイルズ(β版)のものだ。見れば分かるが、低設定の画質は残念すぎる。
ここまで見ると、いろいろと疑問が湧いてくるはずだ。次のページでは、その疑問に答えていく。
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