GPUの「レイトレーシング処理」改良の歴史をひもとく【Radeon RX 7000シリーズ編】:レイトレーシングが変えるゲームグラフィックス(第6回)(1/5 ページ)
PC用GPUにおけるリアルタイムレイトレーシングの実装において、遅れを取ったAMD。その実装方針は、NVIDIAとも異なっていて興味深い。Radeon RX 6000シリーズ(RDNA 2)からRadeon RX 7000シリーズ(RDNA 3)への進化に当たり、レイトレーシングユニットにどのような改良が加えられたのか、解説する。
ゲームグラフィックスへのレイトレーシング(レイトレ)適用が増えてきた昨今。ゲームの開発シーンでは、現世代のゲーム機において「どんなレイトレ活用が向いているのか?」という“基本解”が導き出されつつある。その辺の話は、この連載の第2回で取り上げた。
家庭用ゲーム機よりも進化の速いPC向けのGPUの世界では、さらに高度なレイトレーシング技術の実現(活用)を目指して、GPUに統合された「レイトレーシングユニット(RTユニット)」の機能/性能強化が進んでいる。今回は、AMDの「Radeon RX 7000シリーズ」におけるRTユニットの進化を見ていこう。
競合から2年遅れて「レイトレ対応GPU」を投入したAMD
NVIDIAが、ハードウェアベースのレイトレーシング機能を世界で初めて搭載した「GeForce RTX 20シリーズ」を発表したのが2018年だった。
競合のAMDは2019年、新GPUアーキテクチャ「RDNA」を発表し、同アーキテクチャを採用したGPUの開発コード名が「Navi」となることを発表した。
Naviは「Radeon RX 5000シリーズ」として製品化されることになったわけだが、多くのPCゲーミングファンは「Radeon RX 5000シリーズには、きっとRTユニットが搭載されている!」と確信していた。
ところが、ここでまさかの“肩透かし”が発生する。Radeon RX 5000シリーズはレイトレ“非対応”だったのだ。
結論からいうと、AMDのGPU(Radeonシリーズ)がレイトレ対応を果たすのは、2020年に登場する「Radeon RX 6000シリーズ」を待つ必要があった。レイトレ対応の家庭用ゲーム機「PlayStation 5」や「Xbox Series X|S」とほぼ同じタイミングでの登場だ。
これだけを見ると、AMDはNVIDIAに2年の遅れを取ったことになる。
だが、PlayStation 5やXbox Series X|SはAMD製のAPU(GPU統合型CPU)を採用しており、グラフィックス回り(GPUコア)はRadeonベースである。単体GPUではレイトレ非対応なのに、APUではレイトレ対応となったのだ。
そういうこともあり、当時は「なぜ、Radeon RX 5000シリーズ(RDNA)の時点でレイトレ機能を搭載できなかったのか?」という議論が盛り上がったことを記憶している。
2020年に発売されたPlayStation 5(左)、Xbox Series S(中央)、Xbox Series X(右)は、いずれもAMD製APUを搭載しており、GPUコアはRadeonベースでハードウェアベースのレイトレーシング機能にも対応している。ゆえに「なぜ単体GPUで先に対応できなかったの……?」という疑問が相次いだ
その答えは、端的にいうとRadeon RX 5000シリーズは“コスパ重視”の“中継ぎ”として開発されたからである。最初からレイトレ対応するつもりがなかったのだ。
実際、Radeon RX 5000シリーズの最上位モデル「Radeon RX 5700 XT」のピーク時の演算性能は約9.8TFLOPSで、1つ前の世代の「Radeon VII」(約13.4TFLOPS)はもちろん、さらに2世代前の「Radeon RX Vega 64」(約11.1TFLOPS)よりも低かった。
しかし、そんなAMDの思惑をユーザー側が知る由もない。Radeon RX 5000シリーズは、レイトレ対応を強く期待していた人たちの期待に応えられなかった。ただただ「AMDはNVIDIAに対して遅れている」というイメージを増大させるだけに終わってしまった感がある。
レイトレ初対応は「Radeon RX 6000シリーズ」に
Radeonがハードウェアベースのレイトレーシングに初対応したのは、2020年末に登場したGPUアーキテクチャ「RDNA 2」からとなる。GPUチップとしての開発コード名は「Navi 2」で、製品名は「Radeon RX 6000シリーズ」だ。
余談だが、先に紹介したPlayStation 5やXbox Series X | SのGPUコアもRDNA 2アーキテクチャベースである。
- →AMDが「RDNA 2」アーキテクチャに基づく「RADEON RX 6000」シリーズをチラ見せ
- →AMDの新GPU「Radeon RX 6000」シリーズ正式発表 DirectX 12 Ultimate対応で579ドル(約6万円)から
2022年末には、現時点で最新のGPUアーキテクチャ「RDNA 3」を採用した「Radeon RX 7000シリーズ」(開発コード名:Navi 3)が発表された。
トップモデル「Radeon RX 7900 XTX」のピーク時における理論性能は約61TFLOPSと、先代の「Radeon RX 6900 XT」の約23TFLOPSから2.6倍ほどパワーアップアップしている。驚きの性能向上ぶりだ。
ライバルの最上位機「GeForce RTX 4090」の約83TFLOPSには水を開けられているものの、実売価格(16万〜20万円程度)や定格消費電力(355W)はだいぶ低い。性能を鑑みると、ちょうどGeForce RTX 4090と「GeForce RTX 4080 SUPER」(約52TFLOPS/消費電力320W)の中間に来るイメージだ。
Radeon RX 7900 XTXは、ピーク時の演算性能は、Radeon RX 6900 XTの約2.6倍に引き上げられた。性能的にはGeForce RTX 4090とGeForce RTX 4080 SUPERの中間といった具合となる
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