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「目の付け所がシャープでしょ」は復活するのか――新型「AQUOS」TVを見て感じた兆し(2/2 ページ)

シャープが2027年度までの中期経営計画を発表した。その説明会の中で、沖津雅浩社長兼CEOがかつての企業スローガン「目の付け所がシャープでしょ」に言及した。本発表の後に発表した新型AQUOS TVには、その息吹を感じる面白い機能が搭載されている。

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新しいAQUOSに感じる「目の付け所がシャープでしょ」

 そんなことを感じながら、シャープが5月14日に発表したAQUOS TVの新製品(2025年モデル)を見て、「目の付けどころがシャープでしょ」といえる機能をいくつか発見した。

 新製品は有機ELパネルを備えるモデルが3シリーズ8機種、miniLED液晶パネルを備えるテレビが2シリーズ5機種で、5月31日から順次発売する予定だ。

 説明会では、有機ELモデルでは新たな発光素子を使用することで、発光効率を高めて輝きを2倍にしたこと、miniLED液晶モデルではきめ細かな明暗制御と光反射シートの採用によって、明るい部屋でも「AQUOS史上最高の輝きと色彩を実現」したことを強調していた。

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 さらに、両モデル共に新開発の画像処理エンジン「Medalist S6/S6X」により、映像に合わせて画質と音質を自動調整し、空間認識AIを使うことで明暗と精細感を自動で補正することが可能だという。


AQUOS TVの2025年モデル

有機ELモデルの最上位(AQUOS HSシリーズ)では量子ドットを適用した有機ELパネルを採用し、miniLED液晶モデルでも量子ドットを適用したLEDバックライトを採用することで輝度と色彩を向上している

画像処理エンジンを刷新することで、映像空間をAIで認識して色味や輪郭だけでなく奥行きも復元できるようにした

 だが「目の付け所がシャープでしょ」な機能は、これらではない。新製品説明会の機能説明パートの後半で、シャープの上杉俊介氏(TVシステム事業本部 国内事業部副事業部長)が急に説明をし始めた“細かい”機能こそがそれだ。

 1つ目は、時間が重なった番組を2番組同時に視聴する「よくばり視聴」だ。最近は動画視聴において「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する動きがあるが、そのニーズに応える形で、放送中の番組とUSB HDDに録画した番組を同時視聴可能にしたのだ。再生画面のサイズは大小9通りに対応している。

 「目の付けどころがシャープ」なポイントとして、よくばり視聴では音が出ていないサブ画面で字幕表示を行う機能も備えている。メイン画面でドラマを見ていて、サブ画面でスポーツ中継を見ている場合などに便利だろう。

 音はどちらか1つしか聞くことができないが、字幕で聞けない分をカバーする――この発想は秀逸だ。


放送中の番組と、録画済みの番組を同時に再生する――こういう機能はありそうでなかった機能である

 2つ目は「L字カット機能」だ。TV番組では、例えば大型台風が日本に近づいてきた場合などには本編映像に気象情報や避難情報などがL字状に割り込んで表示されることがある。しかし、録画した番組を再生する際には、L字で表示された情報は不要になっていることが多い。不要な情報によって、映像が小さくなってしまうのだ。

 その点、新モデルが搭載したL字カット機能は、名前の通り録画番組を再生する際にL字を検出して“切り取って”再生してくれる。これにより、録画したコンテンツを大画面で楽しめるので、再生時の“モヤモヤ感”を拭える。


異常気象や災害時にありがちな「L字」の表示部分を切り抜いて再生してくれる機能も、ありそうでなかった

 そして3つ目が、ゲームプレイ時の「リサイズ機能」である。これは大画面ゲーミングディスプレイでもおなじみの機能で、画面表示領域をあえて狭めるものだ。ディスプレイ自体も、応答速度を最短約0.83ミリ秒、リフレッシュレートを最大144Hz(VRR:可変リフレッシュレート対応)としている。

 リサイズ後の画面サイズは24~27型相当となり、「部屋の照明が反射する場所を避ける」ために、画面内で表示位置を移動することもできる。

 なめらかな映像でゲームを楽しめる技術的な優位性を訴求する一方、リサイズ機能によって大画面TVで問題となるゲームプレイ時の視線移動距離を最小限に抑え、操作しやすくできるともアピールする。


画面の表示領域をあえて狭めることで、ゲームプレイにおける視線移動を減らすことができる

 さらに、TVを視聴している間の“隙間時間”に視力の検査ができる「めめログ」を新たに搭載した。リモコンのカーソルボタンを使って、簡単に視力検査ができる仕組みだ。

 昨今、若年層の近視が課題となっているが、親がそれに気付かずに近視対策が遅れるという課題が生まれている。簡単なテストを実施することで、子供の視力の変化にも気がつきやすい環境を作ることを目指して搭載したという。

 従来は「TVを見ると目が悪くなる」と言われ続けてきたが、「TVを使って近視を早期発見する」という新たな使い方ができるようになる。TVが視力対策の強い味方になるというわけだ。

 シャープでは、今後発売するTVにめめログを標準搭載し、さらにAIを活用したアドバイス機能を付加することも視野に入れているという。


2025年モデルからプリセットされるようになった「めめログ」

リモコン操作で視力検査をしていくと……

結果が表示される。ただし、めめログで調べられる視力はあくまで目安であるため、精密な視力検査は眼科で、ということになる

 このように、TVの本質機能とは異なる部分に「目の付けどころがシャープ」といえる機能がいくつか装備されている。上杉氏は「これらの機能は、若い社員たちから上がってきたアイデアを形にしたものだ。若手社員が、自分たちがTVを使っていて必要だと感じた機能を搭載した」という。

 これらの機能が新たな市場を創造するというものではない。しかし、こうした「目の付けどころ」の小さな積み重ねが、シャープのTVそのものを、“シャープらしい”製品に変えていくことにつながるのは間違いない。

 そして「目の付けどころがシャープでしょ」というスローガンを使っていた時代を知らない世代の社員が、「目の付けどころがシャープ」といえる機能を生み出していることは「シャープらしさ」の復活につながるとの期待感も生まれる。

 シャープの高橋秀行氏(TVシステム事業本部 国内事業部 事業部長)は「お客さまから見て、一目で分かるような独自の特徴を備える商品を市場投入してきたのがシャープである。今後も、この考え方をしっかりと受け継ぎながら、お客さまから喜んでいただけるような製品提案を続けていく」と約束する。

 これからシャープらしい製品が、どれだけ登場するのか。そのインパクトをどれだけ最大化できるのか。それが、中期経営計画の成否を握ることになる。

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