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そのアプリ、本当に安全ですか? スマホ新法で解禁された「外部ストア」と「独自決済」に潜むリスク(1/3 ページ)

12月18日、スマートフォンのアプリ流通や決済システムに競争をもたらす「スマホ新法」がついに全面施行された。新法施行から1週間、iPhoneに訪れた静かな、しかし確実な変化と、そこに見え隠れするリスクを検証する。

 12月18日、「スマートフォン特定ソフトウェア競争促進法」(通称:スマホ新法)が全面施行された。

 アプリ開発者の競争力を促進することを目的に、これまでOSを開発するプラットフォーマーが独自の哲学や安全基準に基づいて行っていたアプリ流通/決済/標準Webブラウザと検索サービスの選択に対して、政府が強制力を持った法律で介入してやり方を変えるという事前規制法(問題が起きる前から、事前に義務を課す法律)だ。

 Appleや一部の識者が、プライバシー保護や青少年の安全な利用において重大なリスクになりえるとしていた同法だが、今回の施行で、実際にどのようなリスクが現実になったかを検証していきたい。

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 AppleやGoogleと公正取引委員会とのギリギリまでの調整によって、同法はとりあえず施行時点で大きな問題を起こすには至っていない。安全性に懸念を示していたAppleも「DMA(欧州デジタル市場法)よりはユーザーの安全性を考慮した設計になっている」と評価する。

 特にAppleもGoogleも共に、セキュリティ/プライバシー/子供の安全性/犯罪防止などのために必要な措置を「正当な理由」として認める例外規定「正当化事由」が明記されたことは高く評価している。

 スマホ新法は、AppleとApp Storeを営むiTunes株式会社、Googleを対象にした法律だが、本稿ではiPhoneへの影響を中心にまとめたい。


スマホ新法が施行され、他社が運営するアプリストアのインストールが可能になったiPhone。真っ先に登場したのは、ヨーロッパ同様「AltStore」だった

ブラウザ・検索サービス変更にもリスクはあるのか?

 新法施行を真っ先に感じさせるのが、標準Webブラウザの選択画面だ。新法に対応したスマートフォンを最新OSにアップデートすると、Webブラウザ初回起動時に、どのWebブラウザを標準ブラウザにするかの選択画面が現れる。これまでiPhoneではSafari、AndroidではChromeが標準のブラウザだったが、実はそれ以外にもこんなに選択肢があったのだと驚かされる。


これまでは何もしないとSafariが自動的に標準Webブラウザとして選ばれていたが、iOS 26.2以降では初回起動時にどのWebブラウザを使いたいかの選択画面が現れる

 では、ここで本当に標準ブラウザを切り替えるだろうか。AndroidにはSafariがないし、Chrome以外のWebブラウザで知名度があるのはMicrosoftのEdgeくらいだろう。PCでEdgeを使っている一部の人がEdgeに切り替えることはあるかもしれないが、実はPC用のWebブラウザを見ても人気No.1はChromeと考えると、標準ブラウザの設定を切り替える人は少ないのではないだろうか。

 一方、iPhoneユーザーはこれまでの標準のSafariと業界最大手で、最近は広告も多いChromeかの二択で悩む人が多いかもしれない。PCでChromeを使っている人の中には、Chromeに流れる人もいると思われる。

 このWebブラウザ選択画面を取り入れたことで、おそらく一番得をするのはGoogleだろう。多くのiPhoneユーザーを獲得できる可能性がある。

 ではiPhoneユーザーはSafariからChromeに切り替えることによって、どのような危険や不利益にさらされるのだろうか。下記の表はGoogleの生成AIにまとめさせた両ブラウザの主な違いだ(生成後、筆者の方でダブルチェックを行った)。


【表】GoogleのAI「Gemini」がまとめてくれたSafariとChromeの主な違い

 実は、Safariもユーザーがアクセスしようとしているのが危険なサイトかをチェックするのにGoogleのデータベース情報を利用している。ただし、Safariでは、その際に個人情報をAppleの方で匿名化して送信しており、より徹底したプライバシーへの配慮が行われている。

 またChromeもプライバシーには配慮しているが、Google自体が広告を収益源としている会社なので広告企業向けのデータ提供に関しては甘い部分がある。Safariでは、ユーザーがどんなWebサイトを見ているかを追跡できないようにする「Intelligent Tracking Prevention」(ITP)という機能を提供しており、ユーザーが望まない広告を表示しない機能なども充実しているが、Chromeはそれらの機能は弱い。

 SafariはiPhoneそのもののバッテリー動作時間に配慮した設計にもなっているので、他のブラウザに切り替えた人はiPhoneのバッテリー動作時間にどんな変化が起きているかも気にしてみると良い。

 一方でChromeは、Safariよりも少しだけセキュリティ問題に対応するアップデートの提供が早く頻度も多いという特徴や、Googleが提供するサービスとの連携性の高さに強みがある。

 新法では、ブラウザだけでなく標準で使う検索サービスも設定するようになった。iPhone/Androidのどちらも、これまではGoogleだったが、新たに選択画面が追加される。Yahoo!やBingなら知っている人も多いだろうが、それ以外にもこんなに選択肢があったのかと驚く人も多いのではないだろうか。


特に指定しなかった場合、標準で用いる検索サービスも設定できるようになった。ただ、GoogleとYahoo!以外の検索サービスをどれだけの人が知っているのだろう。実際にはほとんどの人はそのままGoogleを使い続けるのではないか。ちなみに、プライバシー保護を重視する人の間ではDuckDuckGoが人気だ。またMicrosoftのBingも最近では精度がかなり高い

 ただし、Googleをそのまま使い続ける人が圧倒的多数だろう。実はAppleは一時、プライバシーへの配慮が優れているDuckDuckGoという検索サービスに傾きかけていた。そこで影響力のあるAppleが引き続きGoogleのサービスを使い続けてくれるようにGoogleは毎年Appleに多額の契約料を支払うようになった。

 今回、法律による強制が加わったとはいえAppleがGoogleを指定検索エンジンにできなくなったことを受け、今後はこの契約料が減る可能性がある。ほとんどの人はApple推奨のDuckDuckGoを知らずGoogleを使い続けるであろうことを考えると、Googleとしては利用者をさほど減らさずに契約料は減らせてこちらの面でも得をしそうだ。

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