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政府がiPhoneを“再設計”!? Apple幹部が示す消費者無視の規制への懸念 スマホ新法の施行を迎える日本はどうなる?(1/3 ページ)

12月18日に全面施行予定のスマホソフトウェア競争促進法だが、欧州での現状を踏まえAppleが懸念を表明している。林信行氏が現状を整理した。

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 「政府は私たちの製品を“再設計”したがっている。しかも、それはユーザーのためではなく、ほんの一握りの巨大企業の利益のためだ」

 Appleワールドワイドマーケティング担当上級副社長のグレッグ・ジョズウィアック氏(通称Joz)は力強くそう語った。

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Apple ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のグレッグ・ジョズウィアック氏。スティーブ・ジョブズ氏が存命していた時代、彼と一緒に製品発表をしていたフィル・シラー氏(現在はApple Fellow)の後任で同社の世界戦略における中心人物だ。今回の製品発表ビデオでも、iPhone 17 Proシリーズの場面で登場した

Appleが警告する「史上最大のプライバシー脅威」

 iPhone AirやiPhone 17/iPhone 17 Proが発表された新製品発表イベントの翌日、Apple本社を取材で訪れていた日本の一部メディアが集められ、Appleでも最も重要な重役の1人が珍しくグループインタビューに応じてこう語った。

 彼が問題にしているのは、世界各国で進むデジタル市場競争促進を名目とした規制強化だ。実は日本でも2024年成立の「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(通称:スマホ新法)が2025年末に施行予定となっている。

 欧州連合(EU)では、既にデジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)が実施され、いくつかの弊害が出始めている。

 例えば「iPhoneミラーリング」や多言語が入り乱れるヨーロッパでこそ真価を発揮する「ライブ翻訳」の機能を提供できない。こうした機能の見送り問題は、スマホ新法次第では日本でも起こり得る。

 Appleは、規制が日本を含む他国に拡散した背景には欧州の動きがあったという。数年前、EUの関係者が世界各国を回り、DMA類似の規制を採用するよう働きかけ、日本でもそれを行っていたというのだ。

 他の企業が平等に競争できるようにというDMAの提案は、表層レベルでは素晴らしいことのように聞こえる。しかし、実際は深刻な副作用をはらんでいる。

 「これは政府によるユーザープライバシーへの史上最大の脅威だ」とジョズウィアック氏はその問題を指摘する。

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完全ワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro 3」の目玉機能として発表された同時翻訳機能「ライブ翻訳」だが、プライバシー保護の観点からヨーロッパでは利用できない。仮に解放すると、他社のアプリがこの機能で利用される秘匿性の高い会話を盗み聞きできる危険性があり、Appleはそうならない形で提供するすべを模索している

あなたのプライバシーを強制共有:欧州で現実となった「悪夢のシナリオ」

 ジョズウィアック氏が「DMAの行き過ぎた拡大解釈」が横行していると非難する欧州では、欧州委員会がAppleに対していくつか他社製品との連携の強制を行っているが、その中身は衝撃的だ。

 なんと、Appleに「ユーザーが今まで接続したWi-Fiネットワークの完全な履歴」と「デバイスに送られてくる通知メッセージの中身全て」の提供を求めているというのだ。これらの情報は「これまでApple自身も見ることができないようにしてきた機密性の高い情報だ」とジョズウィアック氏はいう。

 「接続したWi-Fiネットワークの名前」くらい問題がないのでは? と思う人もいるかもしれないが、AppleのAirTagが、周囲にあるWi-Fiの情報で紛失物がどこにあるか地図上に表示してくれるように、Wi-Fiの名前を共有することで、iPhoneユーザーのおおよその位置が特定できてしまう。

 以前、表参道を歩いていたらFacebookに突然、お酒の広告が表示された。頭上の街頭広告を見るとちょうど表参道でそのお酒のイベントが開催中だったという経験をしたことがある。筆者の位置情報を元に表示されたのか確認はできていないが、もしそうだったとしたら、見方によっては、自分がいる場所に関連した情報が得られる便利な行為に思える。

 しかし大事なのは、自分がそのソーシャルメディアに自分がどこにいるか調べていいと許可したか否かだ。

 許可していないのに位置を把握したアプリは、他の人に知られたくない場所に行った記録も、どれくらいの頻度で病院に通院しているかも、あなたの子供がいつも何時頃にどのルートで帰宅しているかもデータとして記録できてしまう。

 「あなたのデバイスは、あなたについて多くのことを知っています」しかし、これまではそのデバイスを、そもそも「あなたの個人的なことは知りたくない」と考えているApple(個人情報で利益を得ていないApple)が設計していたから信頼し安心して使うことができた。

 しかし、欧州DMAルールが強制されたiPhoneは、信頼のAppleブランドを冠しながらも、あなたの個人情報を欲しがる企業に情報提供をすることが「強要」されているのだ。

 「その(機密)情報は、もはやあなたのデバイス内に安全に保管されるのではなく、要求した企業が好き勝手に持ち去り、好きな場所で保存できるようになる。そして最悪なことに、その情報の使用目的や方法について、Appleは何の条件も付けることができない、そうすることが禁じられているのだ」とジョズウィアック氏は無念そうに語る。

 最近、Appleは「iOSの通知機能」「近接ペアリング」「ファイル転送手段」「自動Wi-Fi接続」「自動オーディオ切り替え」など5つの機能について、プライバシー保護の観点から規制を受けない免除対象にする申請を行った。しかし、9月19日に欧州委員会はAppleのこれらの申請を却下した。

 Appleは、これに対して「欧州委員会の行動は、ヨーロッパのユーザーのプライバシーとセキュリティを損ない続け、ユーザーが愛する高度に統合された体験を脅かし、Appleが知的財産を競合他社に無償で提供することを要求している」という非難の声を上げている。

 それにしても、そもそも人々のプライバシー情報をそこまで貪欲にかき集めようとするのはどんな企業なのだろうか。Appleは、最も貪欲な1社の名前を公表している。これまでもプライバシー情報の取り扱いで散々問題を起こしてきたMeta(旧Facebook)だという。

 プライバシー保護を軽視していると指摘され続けてきた企業が、政府の力を借りて、iPhoneユーザーの最も機密性の高い情報へのアクセスを実現しようとしている形だ。

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どこのWi-Fiアクセスポイントを利用したかは重要なプライバシー情報だ。デジタルテクノロジーがもたらす現代社会に潜む新たな危険を、アート作品として可視化するアーティスト集団「Critical Engineering Taskforce」の作品「Unintended Emission」(意図しない電波放射という意味)は、その危険を教えてくれる。詳しくはこちらの記事を参照してほしい

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