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Appleが“地球の未来を変える2030年までのロードマップ”を公開、ゼロを掲げる理由21世紀企業に啓示を与える100ページ超の報告書(1/4 ページ)

Appleが突如発表した、「2020年度進捗報告書」とは何なのか。その詳細を林信行氏がリポートする。

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 7月21日、インターネットでは、いつものように「Appleがまた新製品を発表するらしい」といううわさが流れていた。しかも、まことしやかに「今日にも発表がある」との話もあった。確かにAppleから発表はあった。だが、発表されたのは、多くの人が期待する新型ハードウェアではなく100ページに及ぶ環境への取り組みを示した「進捗報告書」と、その概要を示した新しいWebページだった。

 財布のひもをゆるめて待っていた人にとっては、ガッカリした内容かもしれないが、これはこれまでのどのApple製品よりも大きく、大胆な発表であり、地球上の77億人強の全てに、これから先数十年にわたって計り知れないほど大きな影響を与える発表でもある。

Appleの10カ年計画

 これから10年後の未来に向け、Appleが大きな目標を発表した。それは、「2030年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を実現する」だ。

 iPhoneやiPad、Apple Watch、Apple TVやMacなどの製品や、iCloudやSiriなどのサービス、さらに直営店など、Appleは世界中で何億人という顧客に対して多大な価値を提供しているが、これだけの価値提供をしていながらも、Appleのさまざまな事業活動によって増える二酸化炭素の量を合算で「0(ゼロ)」にする、ということだ。

 リニューアルされた、環境への取り組みを紹介したホームページ冒頭では、こんな言葉が書かれている。

 「不可能だという人もいるでしょう。でも、我々の考えは違います。」

 Appleは2015年から環境に関する取り組みを始め、現在、既に35%の削減ができたという。2020年4月からはAppleとしての排出量は既にカーボンニュートラルになったという。

 「既にカーボンニュートラルなのに、2030年の目標とはどういうこと?」と疑問に思うかもしれない。

 過去の関連記事でも触れてきたが、Appleによる排出炭素量削減の目標は、自社およびその事業所の二酸化炭素排出だけをカウントしようというような甘い目標ではない。

 Apple製品は、世界の200近いサプライヤーが、部品を提供したり、製造を請け負ったりすることで形になっている。実はこの世にAppleという会社が存在しているが故に排出されてしまう二酸化炭素の量では、こうしたサプライヤーから排出される二酸化炭素の量が圧倒的に大きい。

 Appleはこうした事実に目をつぶらず、ちゃんと正面から受け止めるどころか、資金や技術を提供して、100%再生エネルギー生産(RE100)への転換を推進してきた。こうやってAppleの協力でRE100への事業転換を果たした会社が、その技術で競合を含む他社製品の製造を行うことも許すどころか、むしろ応援してきたことは過去の記事でも紹介した。

 そして今回、Appleは誇らしげに、このように100%再生エネルギーへの転換を約束してくれたサプライヤーが70社まで増えたことを発表した。この中にはソニーの子会社、ソニーセミコンダクタソリューションズを始め、紙やフィルム、合成樹脂の積層などを行う恵和など日本の企業も多く含まれている(他の日本企業としては、イビデンエンジニアリング、日本電産、太陽インキ製造らが真っ先に取り組みを示した)。

 これら70社がRE100になることで、生み出される再生エネルギーは年間8GWにもなる。これは1430万メトリックトンの炭酸ガス削減につながり、地球上の道路から300万台のガソリン車をなくすことに匹敵するという。

 「気候変動は現実で、我々はみな、これと闘う責任を共有している。我々は決して手をゆるめることはしない。なぜなら、未来の世代にとっては我々こそが頼りなのだから」。そう語るティム・クックCEO率いるAppleによる、10年でカーボンニュートラルという大胆な目標だが、これにはさらに続きがある。

 本社機能だけでなく、サプライヤーの炭酸ガスもカウントしてカーボンニュートラルというのは確かにとてつもなく大胆な目標に思えるが、Appleはさらにその先を目指している。なんと、同社が相殺するという炭酸ガスのカウントには、顧客がApple製品の使用中に生じる炭素排出もカウントするというのだ。

 もしかしたら、最近のApple製品のエネルギー効率が良いというアピールもあるのかもしれないが、確かにこれは「不可能だ」と言いたくなる。

 だが、Appleはこれから10年のかなり具体的なロードマップも示している。

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