レビュー

Appleの「激安」クリエイターツールは仕事で使える? 月額1780円という圧倒的コスパと“3つの死角”:打倒Adobe/Microsoftなるか?(3/4 ページ)

「Adobe Creative Cloud Pro」や「Microsoft 365」が支配するクリエイティブ/ビジネスツール市場に、Appleが「月額1780円」という破格の価格設定で一石を投じた。新サービス「Apple Creator Studio」というAppleの新たな挑戦の光と影をまとめた。

Apple Creator Studioが今後取り組むべき改善点

 プロ品質の画像/映像/音の加工ができるアプリを、手頃な価格で提供するApple Creator Studioは、Appleが教育市場などでも取り組んできたチャレンジ――つまり、多くの人が分かりやすいアプリを使って、よりうまくコンピュータ(PCやiPad)を使いこなし、これまでよりも高いレベルの自己表現をする理想を、一歩現実に近づけるアプリ群だと思う。

 このサービスに登録することで、これまでやったことがなかった新たな表現にチャレンジする人も増えるだろう。その点は高く評価するし、応援したい。特により安く利用できる学生(月額480円/年額4800円)にこのアプリ群が普及して、さまざまな創作にチャレンジしてくれるのは大きな希望だとも思っている。

 その一方で、コンピュータ業界を長く見てきた一人として、これらのアプリ群を手放しでただ賞賛するだけで終わらせてはいけないという責任も感じている。

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 実はApple Creator Studioには、AdobeやMicrosoftのアプリ群と比べて、圧倒的に劣っている部分がある。

 最近ではその特徴の欠けた海外製アプリがあまりにも増えて、当たり前になり過ぎていて見過ごされがちな部分――つまり、「日本語の取り扱い」を筆頭とした、日本文化への対応だ。

 ぜひ今後、軌道修正をしてほしいので、あえて書かせてもらう。

 AdobeやMicrosoftは長い間、日本市場でも顧客の声に耳を傾け、アプリのブラッシュアップを続けてきた歴史がある。そのため、縦書き文の取り扱いなど、日本語の取り扱いに真摯に向き合ってきた。


この原稿もPagesで書いており、Pagesは基本的な日本語の文書作成をする上では全く問題がないアプリだ。ただ、MacやiPadの標準の文書作成アプリなのに、日本語圏で日々目にする縦書きなどの文字表現への対応は、登場から20年経った現在でもプリミティブな機能のままで、もし、このまま日本語の取り扱い機能を向上させるつもりがないのであれば、プロの仕事道具としては力不足と感じる部分もある

 特にAdobe Creative Cloudは、日本の出版文化を支えてきたアプリ群の提供者でもあるだけに、豊富な日本語フォントバリエーションの提供など、高価なりに日本の文字文化をデジタルの時代にも継承しようという姿勢では大きな貢献をしている。

 対して、Appleのアプリの日本語の取り扱いは、極めてベーシックなものにとどまる。

 確かに現在は、Webページにしてもアプリにしても横書き表現が圧倒的に多く、ルビ(読み仮名)などの高度な日本語処理が求められる場面はごく限られている。そのため、こういった機能が使えないことに不自由を感じている人は少ないかもしれない(というか、そうした表現がコンピュータでできないために、われわれが括弧内に読み仮名を書くなどの代替表現に慣らされてしまった)。


ルビも重要な日本語表現の文化だ。WordではOffice 2003以前から対応している

 私と同様に、Apple Creator Studioを先行レビューしている他のライターの多くも現状に満足してしまい、この問題を特に指摘しないだろう。

 だが、人気のアプリや人気のツールは、後の人々の文化に与える影響も大きく、それに対する責任も大きい。そもそも日本語の縦書きが減ったのは、縦書き表現が苦手なワープロアプリが多かったことも、少なからず関係しているのではないだろうか。

 AppleはDTP(コンピュータ出版)のパイオニアとして、活版印刷から初期のDTPへ移行する過程で失われた文字表現文化を取り戻すべく、Adobeと共にさまざまな新技術を開発した歴史がある。それまでの以前のほとんどのPCを上回る豊富な字形以上の表現に対応したフォント「ヒラギノ」を真っ先に採用し、数万文字の表現を広げた先駆的企業でもある。

 そんなAppleにとって、日本語の豊かな文字表現文化を復興させることは、実は重要な使命ではないだろうか。

 残念ながら、Apple Creator Studioの最初のバージョンでは、そういった努力は払われていない。

 ちなみに問題は文字の表現だけではない。Apple Creator Studioのあまり話題にならない魅力の1つに、「プレミアムコンテンツ」と呼ばれる、プロが撮り下ろした大量の写真やイラストなどのストック画像がある。

 しかし、こちらも西洋文化に関するストック画像は充実している一方で、日本文化となると、私たちの日常でよく使う文化風習に関するものですら絶対数が少ない上に、中国や韓国などの似た文化が混在している。例えば「七五三」を検索すると、それに似た韓国や中国の文化が、注意書きもないまま一覧に表示された。

 確かに周辺国にも似た文化がある以上、そういった画像を同時に見つけられること自体が悪いわけではない。


コンテンツハブで七五三などのいくつかの日本らしい文化の写真を探したところ、中国や韓国と思しき写真が候補に出てきた。神社で検索した際も、タイなどの東南アジアの仏教施設のような写真が表示された。問題なのは、そうして出てきた写真を選ぶ際に、写真の説明がないため、文化に詳しくない人が異なる文化の写真などを挿入してしまう危険があることだ

 問題なのは、画像を選択した際に、その文化的背景についての説明が一切表示されない点だ。その結果、日本文化に詳しくない海外の人々や子どもたちに、誤った文化的アトリビューション(帰属性)を助長することになりかねない。

 これらは、デジタル時代の文化の作り手であるAppleには、特に敏感かつ慎重に対応してほしい問題だが、少なくとも最初のバージョンでは、Appleはその仕事をほとんど行っていない。この点については、今後の改善に期待したい。

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