TV機能とPCディスプレイ機能を統合した製品が相次いで登場し、1つのジャンルとして定着してきた。だが、「TV機能に手を伸ばしたPCディスプレイ」と「PCディスプレイ機能に裾野を広げたTV」とでは、位置付け的には似ているものの、大きく異なる製品だという。AV評論家の本田雅一氏が解説する。
Blu-ray Disc(BD)とHD DVDによる次世代光ディスクの標準を争った競争もやっと決着が付き、さらにコピーワンス信号の扱いも、(理想的な手法とは言い難いものの)ダビング10の運用が開始されることで、ハイビジョン関連の製品も購入しやすい環境が整ってきた。
まだまだ地上アナログ放送とDVDで十分というユーザーもいる一方、ハイビジョン環境が手放せなくなったユーザーも増えている。昨年の年末商戦で販売されたハイビジョンレコーダーのうち、BDドライブ搭載機は20%だったが、今年夏のオリンピック前には50%がBDドライブを搭載した機種になると言われている。
その背景として、薄型TVのフルHD化が着々と進んでいることは言うまでもない。筆者は以前、PCで利用するディスプレイでフルHDの映像を楽しめる、PCとフルHD映像の両方に対応したWUXGAディスプレイの登場について期待するコラム「TVとPC用ディスプレイの統合時代を考える」を執筆したが、その後、「FlexScan HD2451W/HD2441W」などの機種が登場し、1つのジャンルとして定着してきた。
しかし、ここまでハイビジョンを楽しむ環境が整ってきたのであれば、今度はもっと積極的に映像を楽しみつつ、PCディスプレイとしても高い性能と品質を持つ製品が欲しいと思っていた。というのも、使い勝手や使用する機能(例えばPCならではの編集機能やデータ整理など)に大きな差がないのであれば、AV機能はAV機器に任せてしまった方が、運用はシンプルになるからだ。特にデジタルハイビジョン時代になってからは、録画に関してPCならではの自由な編集とダビングが困難になったためか、TV機能を搭載したPCは少なくなってきている。
デジタル放送では、ダビングと光ディスクへの保存などの運用規定をアナログ時代よりも厳密に適用しなければ対応機器を販売できないことも、家電とPCの力関係に影響を与えている。映像品質は低いものの自由にダビング・編集できたアナログ時代と、映像品質は高いがコンテンツ保存の運用規定が厳格なデジタルハイビジョン時代とでは、どちらが良いとは一概に言えないが、アナログ時代よりも“PCならでは”の魅力を出しにくい状況になっているとは言えるのではないだろうか。
そうした状況の中で「TVとPC用ディスプレイの統合」を考えると、PC用途が中心で+αとしてフルHDコンテンツも楽しみたいというユーザーにはHD2451W/HD2441Wのような「AV入力端子とTVライクな画質モードを持ったPCディスプレイ」が適している一方、TVを始めとするフルHDコンテンツの視聴を中心に利用するユーザーには「PCディスプレイとしても使えるTV」の方が使いやすい。
両者はちょっとした位置付けの違いだが、使う側から見ると大きく異なる製品だ。
1年ほど前、「PCディスプレイとしても使えるTV」の話をAV家電ベンダーにしたことがあるが、次のような理由から実現しなかった。
1 PC用途に24インチクラスの製品を企画する場合、WUXGA解像度(1920×1200ドット)は欲しい。ところがフルHD映像(1920×1080ドット)をドットバイドットで表示すると縦方向が120ドット余る。TVとして販売する場合、この黒帯がクレーム対象になる可能性がある
2 WUXGA解像度のパネルはPC用途前提で作られているため、一般的な市販液晶TVよりも輝度が低い
3 AV家電ベンダーは高品質なPCディスプレイを開発した実績がなく、PCやMacとの接続互換性に関するノウハウや情報を持っていない
このほかにもいくつか理由が上がったが、純粋なTVを出発点として開発するならば、完全にAV機器としての体裁を整えねばならないという、ある種の強迫観念や未知の市場に対する疑問なども製品化の邪魔になったようだ。
したがって、ナナオがあえてWUXGA解像度のパネルを採用した液晶TV「FORIS.HD」を発表した際には、大いに期待した。今回初めてそのFORIS.HD(24V型の「DT24ZD1」)に触れることができたので、その感想も交えながら「PCディスプレイとしても使えるTV」について考えてみることにしたい。
FORIS.HD(DT24ZD1)はHD2451Wと画面サイズが同じで、見たところパネルの性能も同程度のようだ(最大輝度と色域はFORIS.HDが勝る)。VA型のパネルであり、正面からのコントラストは良好だが、斜めから見ると白っぽくトーンカーブが変化して見える。
普段なら「TVとして使うならば、視野角の広いIPSの方がいい」と勧めるところだが、本機のようにパーソナルなディスプレイとして使うならば、コントラスト性能を重視してVA型を使うという選択肢も良いと思う。
3波デジタルチューナーと容量の大きいスピーカーキャビネットを内蔵し、入力端子もD端子、HDMI端子を搭載するとともに、DVI-I端子を搭載することでPCへの対応を果たしている。特にHDMI端子は背面に2系統を備えるだけでなく、側面にも1系統を持つことで、昨今のハイビジョンビデオカメラとの接続を容易にしている点がいい。
PC用パネルということで懸念される明るさも360カンデラ/平方メートルを確保しており、日なたにディスプレイを置いてTVを鑑賞しようと思わない限り、十分な明るさと言える。
また、細かな点だが、TVだけに赤外線リモコンが添付されており、ディスプレイの各種設定操作を小さなディスプレイ上のスイッチで行わなくてもいい。設定メニューなどはTVそのもので、ナナオのPC用ディスプレイとは全く異なるが、操作はこちらの方がやりやすい。
搭載する映像モードもTV放送あるいはHDMI、D端子などから入るAV系ソースの場合は「ダイナミック」「標準」「シネマ」「お好み」から選択し、DVI-I入力時には「テキスト」「ムービー」「ピクチャー」「お好み」から選択するようになる。同じ「お好み」でも、AV系とPC系では異なる値を記憶させておくことが可能だ。
このため、AV系ソース時はバックライトを明るく、画質設定もコントラストや色乗りを重視し、PC系ソース時にはバックライトを落として作業時の疲れを軽減するよう設定しておける。PC系の画面モードの設定はFlexScanそのものであり、AV系の画面モードはFORIS.TVでおなじみの設定だ。
AV系入力時の画質だが、階調のつながりと各輝度レベルごとのホワイトバランスの整い方は、以前からのナナオ製TVを踏襲したものだ。黒を引き締めるためか、標準時はコントラスト拡張が有効になっているが、ナナオのコントラスト拡張処理は黒のつぶれ感が強くなく、程よい効きで暗部階調もある程度は見通せる。またダイナミックモードに切り替えても、ハイライトのサチり感(飽和感)は少なく、きっちりと階調を描きながら最大限、明暗の差を描こうとする。
一方、お好み設定でコントラスト拡張をオフにすれば、コントラスト感は低くなるが、実に滑らかに階調がつながるPCディスプレイライクな映像を楽しめる。コントラスト感やシャープネスを強調した、一般的な液晶TVの店頭モードに比べれば、明らかに“パッとしない”画質だが、PCを使うような机の上で見る映像としては、本機ぐらい落ち着きのある画質の方が、はるかに使いやすいはずだ。
TVチューナーの機能や各種入力信号の処理などは、きちんとAV機器としての機能を備えており、見栄えよりも階調のつながりを重視した生真面目な画作りも合わせ、TVとしてまずは選ばれるだけの品質を備えている。
FORIS.HDはTVが本職なのだから、TVとしての品質が保たれているのは当たり前では? 確かにそうだが、ではTVが本職の製品の中に、どれだけPCとの接続に力を入れている製品があるだろうか?
まず、24インチ、27インチクラスのサイズでフルHDをドットバイドット表示できる製品自体が非常に限られているのだが、32インチ以上を含めても、フルHDのTVは縦が1080ドットしかなく、バックライトが明るすぎたり、グラフィックス情報の再現性で正確さに乏しいなど、PCディスプレイとしては完全に満足と言えるものがない。
例えば書斎において、あるいは一人暮らしのワンルームにおいて、ディスプレイはPCとTVで1つにまとめたい。しかも、TVとしても、PCディスプレイとしても、決して妥協した選択はしたくない。そう思っているのなら、FORIS.HDは存在するただ1つの選択肢だ。
※画面はイメージです
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提供:株式会社ナナオ
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年3月31日