ここ最近、液晶ディスプレイ選びの新たなキーワードとして、「色域」が注目されるようになってきた。昨今は「広色域」をうたうモデルが多数登場しているが、「広色域=高画質」というのは大きな間違いだ。液晶ディスプレイの色域について知っておきたい基礎知識と、用途別にどのような機種を選ぶべきかを紹介しよう。
EIZOチャンネルでは2008年3月に「自分にピッタリなワイド液晶ディスプレイはこうして選ぼう!」と題した記事を掲載し、ナナオ製ワイド液晶ディスプレイのラインアップを整理するとともに、製品を選ぶうえで確認しておきたい項目をまとめたばかりだが、最近市場に出回っている液晶ディスプレイを見ると、新たに「広色域」という売り文句が目立つようになってきた。
今後の液晶ディスプレイ市場において広色域をうたう機種はますます増えていく見込みだが、この言葉の意味するところや実際の効力については、困ったことにユーザーの誤解を生みやすい状態となっている。そこで、今回は知っているようで知られていない液晶ディスプレイの「色域」にメスを入れていきたい。
まずは色域という言葉の意味だが、人間が肉眼で認識できる色の範囲内(可視領域)において、ディスプレイやプリンタなどのカラーイメージング機器やソフトウェアが表現できる色再現可能な範囲のことを指す。
右の図は、CIE(国際照明委員会)が定めた色の統一的な表示基準であるXYZ表色系のxy色度図で、点線内が人間の肉眼で判別できるとされる色の範囲、三角形で囲まれた範囲が各規格の色域だ。当然、三角形の面積が大きいほど、表現できる色の範囲が広いことを意味する。
現状で液晶ディスプレイの色域は、sRGB、Adobe RGB、NTSCの3つの規格で示されることが多い。このうち、PC用のディスプレイで最もポピュラーなのは、IEC(国際電気標準会議)が1998年に策定した国際規格のsRGBだ。ただし、右図にもあるように人間の目で判別できる色の範囲はsRGBよりはるかに広いため、sRGB対応機器で再現できない鮮やかな色も扱いたいというニーズが高まり、次世代標準となる広色域規格が求められるようになってきた。
そこで台頭してきたのが、アドビシステムズが1998年に提唱したAdobe RGBだ。sRGBに比べて、青から緑にかけての色域が大きく広がっている。こちらは国際規格ではないものの、フォトレタッチソフトの業界標準であるAdobe Photoshopが対応しているほか、デジタルカメラでも一眼レフタイプの高性能な機種を中心に、Adobe RGBの色域で撮影できるものが増えつつある状況だ。こうした市場動向もあり、液晶ディスプレイでもAdobe RGBのサポートは進んでいる。
また、Adobe RGBは日本の枚葉(カット紙)のオフセット印刷色標準規格であるJapan Color 2001の色域をほぼカバーしており、最近の家庭用インクジェットプリンタでもsRGBより広い色域の印刷が可能なため、最終的な出力先が印刷物である場合に適合性が非常に高い。
一方、この2つとは毛色が違うのがNTSCだ。これはアメリカの国家テレビ標準化委員会が策定した色域で、再現できる色はAdobe RGBに近いものの、青と赤の色座標が多少異なる。
ちなみにNTSCは、アナログTV方式の色域として作られた規格なので、動画を中心に扱う液晶ディスプレイでは評価の指標になるが、デジタルカメラで撮影した画像の表示や編集など、静止画を扱う液晶ディスプレイとして見た場合には指標にならない。
CIE XYZ表色系のxy色度図におけるsRGB、Adobe RGB、NTSCの色座標 | |||||||
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色域 | sRGB | Adobe RGB | NTSC | ||||
座標 | X | Y | X | Y | X | Y | |
R | 0.640 | 0.330 | 0.640 | 0.330 | 0.670 | 0.330 | |
G | 0.300 | 0.600 | 0.210 | 0.710 | 0.210 | 0.710 | |
B | 0.150 | 0.060 | 0.150 | 0.060 | 0.140 | 0.080 | |
静止画を扱う液晶ディスプレイの色域を評価する場合は、sRGBの対応状況とAdobe RGBの色域をどれくらい再現できるのかが重要になる。現状で広色域をうたう液晶ディスプレイで表示できる色域は、完全にAdobe RGBの規格と一致しているわけではないことに注意してほしい。実際の色域は、RGBのピークに近い高彩度の部分でAdobe RGB以上だったり以下だったりすることが多いのだ。
Adobe RGBを超える部分の色は液晶ディスプレイの表示に使われなかったり、フォトレタッチの作業用領域から外れて使われないことになる。反対に、Adobe RGBより狭い部分の色は当然表示できず、作業用領域からは有効エリアとは見なされなくなる。
ちなみに、これは液晶ディスプレイと印刷物の色を比較する場合も同様だ。通常、ディスプレイでは光の3原色であるRGBによる加色混合(色を重ねると白になる)、プリンタではCMYKによる減色混合(色を重ねると黒になる)を採用するため、完全に正確なカラーマッチングはできない。どうしても互いに表示できる部分とできない部分が出てきてしまうのだ。
このように、規格としての色域と液晶ディスプレイが実際に表現できる色域との間には、原色に近い部分の座標でズレが生じているわけだが、ここに落とし穴が存在する。それは、市場にはAdobe RGB対応をうたう液晶ディスプレイが増えつつあるが、カタログスペックの「Adobe RGB比」という表現が実にあいまいなものということだ。
Adobe RGB比とは、液晶ディスプレイの色域とAdobe RGBの色域の面積比を指す場合が多く、RGBに近い部分の座標がAdobe RGBの色域からずれていても、色域全体の面積が同じであれば「Adobe RGB比100%」という表現が可能になってしまう。つまり、色域の面積を比べるだけでは、実際にAdobe RGBの色域内で表示できる色の範囲がどれくらいなのかが分からないのだ。
こうした誤解を招く表現を避けるべく、ナナオは2004年に投入したAdobe RGB対応モデル「ColorEdge CG220」以来、一貫して広色域の液晶ディスプレイで「Adobe RGBカバー率」という言葉を使い続け、推奨している。これは文字通り、液晶ディスプレイの色域をAdobe RGBの色域と比べた際、どの程度Adobe RGBの色域を覆っているのかを示す言い方だ。広色域液晶ディスプレイの実体により即した表記法といえる。
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提供:株式会社ナナオ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2009年3月31日