AS6508Tには他にも高速アクセスと大容量ストレージを両立する仕組みがある。それが「MyArchive(マイアーカイブ)」機能だ。
ストレージには、原則として抜き差しや交換をしない「内蔵ストレージ」と、必要に応じて着脱する「外付けストレージ」の2種類がある。通常、NASに装着するストレージは内蔵ストレージという区分になる。
AS6508Tを含め多くのNASは、ボディー前面から簡単にストレージを着脱できるようになっているが、これはメンテナンス性を考慮したもの。ストレージが故障した時の交換、あるいはストレージを増強するためにある。頻繁に抜き差しすることは想定していない。もちろん、取り外したストレージを他のNASやPCにつないで使うということもできない。
MyArchive機能は、本来は“挿しっぱなし“で使用する内蔵ストレージを取り外して他のストレージと交換したり、抜いたものをNASだけでなくWindows PCやLinux PC、Macなどから直接利用したりできる機能だ。「指定したベイを外付けストレージとして利用できる機能」と言い換えてもいい。
これをうまく使うと、コンテンツアーカイブメディアとしてHDDを利活用しやすくなる。定期的なバックアップをMyArchiveディスクに取り込んで、「コールドストレージ」として遠隔地や金庫などに保管しておく、という使い方もできるだろう。
なお、MyArchive機能の対象となるストレージにも暗号化処理を施せる。万が一ディスクが盗難に遭っても情報流出を避けられるが、暗号化できるのは「EXT4」で初期化されたストレージに限られるので注意しよう。
10GBASE-Tポートと2.5GBASE-Tポートを備えるAS6508Tは、どのくらいのパフォーマンスを発揮するのか。ベンチマークテストを実施して確かめることにしよう。
NASは複数のHDDを高密度に搭載するため、他のベイに装着されたHDDからの振動などの影響を受けやすい。また、24時間の連続稼働、複数クライアントからの同時アクセス、データに求められる耐障害性など、NASの動作環境はデスクトップPCとは大きく異なる。高いパフォーマンスと高い信頼性を両立するためには、ウエスタンデジタルのWD RedシリーズのようにNAS用に最適化されたストレージを選ぶことも重要だ。
今回は、AS6508Tにおいて2基のSSD(WD Red SA500 2TB)と2基のHDD(WD Red NAS Hard Drive 14TB)で構成したRAID1ボリュームを用意した他、NAS用HDD同士を比較できるように「WD Red NAS Hard Drive 14TB」と「WD Red Pro NAS Hard Drive 12TB」をシングルボリュームで用意している。さらに3基のHDDを用いたRAID5ボリュームも用意した。キャッシュストレージとして、PCI Express接続のM.2 SSD(Western Digital CL SN720 NVMe SSD 1TB)」も2基搭載している。
10GBASE-TポートのテストではASUSTORの10GbEアダプター「AS-T10G」を搭載したPCを用意し、ASUS製の10GbEスイッチ「XG-U2008」を介してAS6508Tと接続する構成とした。一方、2.5GBASE-TポートのテストではASUSTORの2.5GbEアダプター「AS-U2.5G」を搭載したPCと、AS6508Tを直結する構成とした。MTU(1フレームで送受信できるデータ量)はどちらも最大値を設定している。
PCは4コア8スレッドで動作するIntelのCore i7-7700を搭載し、メインメモリを16GB備え、Windows 10 Pro(64bit版)をインストール済みのものを使った。ベンチマークソフトはひよひよ氏が製作した「CrystalDiskMark 6.0.2」の64bit版を用いている。
なお、今回はテストの都合上、クライアントPCの台数を1台のみとしているが、ASUSTORのテスト結果では、2台にするとアクセス速度が約1.5倍程度向上するという。
まず、2基のSSDで構成したRAID1ストレージに対してテストを実施した。
シーケンシャル読み出しではネットワークの差が如実に表れた。1000BASE-T接続時と比べて、2.5GBASE-T接続時は約2.5倍、10GBASE-T接続時は約10倍と単純にネットワークが速くなった分だけパフォーマンスが向上している。一方、シーケンシャル書き込みの結果を見ると、2.5GBASE-Tの速度で“頭打ち”となってしまうようだ。
ランダムアクセスでは、ネットワーク速度による有意な変化はあまり見られない。これは2.5GBASE-Tや10GBASE-Tにおいてジャンボフレームを有効にしていることが影響している可能性もある。
次に、2基のHDDで構成したRAID1ストレージに対してテストを実施した。
傾向を見ると、先述のSSDによるRAID1ストレージと同様だ。シーケンシャル読み出しは10GBASE-T接続時は毎秒1200MBオーバー、2.5GBASE-T接続時で毎秒300MBと1Gbps接続時と比べるとリニアに速度が向上する。NAS用のWD Red HDDのポテンシャルの高さゆえなのか、10GBASE-T接続時のシーケンシャル書き込みがSSDよりも高速だったことも特筆すべき事項だろう。
シーケンシャル読み出しなら、SSDでもHDDでも10GBASE-Tのポテンシャルを十分に引き出せるだけのパフォーマンスを発揮できていることが分かるはずだ。
NASは情報が集約・共有されるハブとして利用される。そのため、高い可用性と耐障害性を求められる。そのため、実運用ではシングルボリューム、JBODやRAID0といった冗長性を持たない構成を取らず、耐障害性を備えるRAID1/5/6/10で利用することがほとんどだろう。
どのRAID構成を採用するかは、ストレージの最低構成台数、容量効率、障害許容台数やアクセス速度などを勘案して決定することになる。また、RAID1/10が比較的単純な仕組みであるのに対し、RAID5/6は書き込みの際にパリティ(等価性)を計算する必要があるため、NASの処理速度次第で書き込み速度が大きく変動する。つまり「RAID1とRAID5/6ではどちらが高速か?」という問いに対する答えは一様には出ない。
AS6508Tではどうなのか。複数台のHDDでRAID1とRAID5のボリュームを作成し、シーケンシャルリード/ライトをネットワーク速度別に比較した。
結果は以下のグラフで示した通り。1Gbpsから2.5Gbpsまでは、構成による速度差はほとんどなく、ネットワークがボトルネックになっている様子がうかがえる。それに対し、10Gbps環境ではRAID5構成のシーケンシャルライトがRAID1構成の1.5倍弱のスコアとなった。
高速なネットワーク環境を構築できる場合は、RAID5の方が速度的に有利なようだ。RAIDの構成を考える際の参考にしてもらいたい。
最後に、HDD同士の速度を見比べるべく、WD RedとWD Red Proをシングルボリューム構成で比較した。WD Redシリーズは一般的なNASでの利用を想定した設計なのに対し、WD Red Proシリーズは8ベイ以上ある中・大規模企業向けのNASで利用することを想定した設計となっている。
結果を見れば分かるが、AS6508Tで利用するならWD Redシリーズでも十分なパフォーマンスを発揮できる。むしろ、NASにアクセスする際のプロトコル(通信方法)が速度を左右している。
8ベイまでならWD Red、それ以上のベイを備えるならWD Red Proを使うとよいだろう。
AS6508Tの特徴は「今より速い環境をすぐに手に入れられること」と「さらに速い環境に育てられること」だ。
ネットワークではすぐに利用できるCAT5eのケーブルを使いながら2.5Gbpsへのスピードアップ、リンクアグリゲーションで5Gbps、そこからCAT6Aに移行すれば10Gbps、リンクアグリゲーションで20Gbpsにまで達する。その一方でストレージは「HDDのみ」「HDD+SSDキャッシュ」「SSDのみ」……というように容量とコストを勘案しながらグレードアップさせることができる。
NASを利用するPCも、段階的な速度向上が期待できる。たとえPCのネットワーク速度が1Gbps止まりだったとしても、NASのネットワーク速度が速ければ、複数台で利用した場合の速度低下が抑えられる、PCのネットワークインタフェースを高速なものに取り替えれば高速化の恩恵に預かれる。USB接続の2.5GBASE-T対応アダプタは比較的安価で、今回テストで使用したAS-U2.5Gは税込みで実売6000円弱で入手可能だ。
10Gbps環境で運用するAS6508TとWD Red/Red Proのポテンシャルは非常に高く、ストレージとしての死角がなくなったような印象がある。今までであれば「速度が求められるデータはローカルに、容量が求められるデータ、重要なデータはNASに」というような使い分けをしていたが、NASの方が高速となると話は変わってくる。
参考までに、TS動画ファイルを「TMPGEnc Video Mastering Works 7」のプラグイン「Commercial Candidates Decetror」でCM検出を行ってみたところ、スピードは「内蔵HDDよりも高速で内蔵SSDにやや及ばない程度」となった。動画のシーク、ランダム再生でも、もたつきは全くない。
こうなってくるとデータの保存・共有用としてだけではなく、作業用ファイルの置き場所としてもNASを活用することが現実味を帯びてくる。複数台のPCのストレージ増設を1台のAS6508Tでまかなえるということを考えると、コストパフォーマンスが優れた一手といえるかもしれない。
ネットワークの高速性を十分生かすことができるウエスタンデジタルのWD Red/Red ProシリーズとAS6508Tを組み合わせれば、すぐに速くなる、そしてこれからもっと速くなる環境を簡単に手に入れられる。動画や静止画の大容量コンテンツを扱っている人はもちろん、会社の大容量データで日々困っている人は、ぜひ導入を検討してみてほしい。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia PC USER 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月29日