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Appleの最新製品は「クリエイティビティの未来」(2/2 ページ)

ついに日本語化されたAppleの無料コンテンツ「Everyone Can Create」。その魅力を林信行が解説する。

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 テクノロジーの使い方には2種類あると思っている。

 1つは、そのテクノロジーを使うことで、すごいことが簡単にできるようになるが、頼り過ぎることで、生身での能力が損なわれてしまう使い方。

 もう1つは、テクノロジーを使って、本来やりたかったことが簡単にできるようになったおかげで、自分の中に眠っていた能力が目覚め、さらに大きなチャレンジをしたくなる使い方だ。

 前者の分かりやすい例は、検索可能なメモや計算機などがそうで、頼り過ぎると記憶力も基礎の計算能力もどんどん落ちる。「これからはそういうことはコンピュータに任せるのだからいい」という人もいるかもしれないし、確かにそういう面もある。ただ、あまりにも著しくそうした能力を失うと、それによって視野や発想の幅が狭まることにもなる。それにいつ災害などの極限状態に置かれるかも分からないと考えると、生身での力はある程度は備えておいた方が良いと思えてならない。

 私はこういったテクノロジーの使い方は、仕事の現場では良くても、教育現場、特に初等教育では良しとしない立場だ。

 Appleの製品とはいえ、もし「Every One Can Create」が、こうした「楽して創造性」的なアプローチを取っていたら、厳しく書くつもりでいたが、さすがにAppleは裏切らなかった。というか、想像の上を行く素晴らしい製品に仕上がっていた。

 さすが、アラン・ケイらパソコン業界を生み出してきた賢人らと、コンピュータが世の中に広まった時代の教育の在り方を研究し続けてきた会社だと改めて見直した(AppleはMac発売の翌年の1985年に「Apple Classroom of Tomorrow」というコンピュータ時代の教育を考える全米の学校を巻き込んだ研究調査を始めている。その中身は、プログラミング教育などコンピュータを使う教育ではなく、コンピュータを使って国語や算数、理科や社会など主要教科を学ぶカリキュラムの開発だった)。

 Everyone Can Createは、冒頭で紹介したレタリングを応用して、元素の周期表を楽しくレタリングしながら描いてみるといったアイデアや、「素数」のような概念をレタリングでどうやって表現するかといった数学と美術を横断したようなアイデアなど、生徒たちの好奇心や創造性の“ムズムズ”を心地よく刺激するヒントが大量に詰まっている。


落書き風アート

 「音楽」「スケッチ」「写真」「ビデオ」の4巻と、学校でこれらを用いた際に役立つ「教師用ガイド」の計5巻のセットで、例えば「写真」編では、iPadのカメラをバーストモードで使用して、ゴールに向かって投げたバスケットボールが描くラインを連続撮影し、その放物線を測定させるといった数学の授業のヒントが入っていたり、写真を撮るときにフィルターをかけることでものの形状を浮き立たせ、自然界の中に潜んでいるフィボナッチ数列を発見させる内容だったりと、教科を横断した、いわゆる「総合的学習」にあたる内容が多い。


「音楽」「スケッチ」「写真」「ビデオ」に「教員用ガイド」を加えた全5巻構成

 こうした新時代の教育では、従来式テストの採点結果で成績を決めるような単純な評価ができず、教員としてどうやって生徒を評価したら良いか悩むところだが、そうした点については「教師用ガイド」にて、学習到達度を示すルーブリック評価の方法が紹介されている。

 全5巻の電子書籍に詰め込まれたヒントはApple側でも、かなり現場で試した鉄板ネタばかりのようだが、決して「こうやって教えましょう」と押し付けるガイドラインにはなっておらず、ヒントという立ち位置を守っている。そのおかげで、このヒントを元にオリジナルのカリキュラムを開発する教員も多く、Twitterのハッシュタグ「 #EveryoneCanCreate 」で共有されている。

 例えば、こちらは米国テキサス州の教員が作った、GarageBandの楽譜を使って分数を学ぶための教材だ。

 全5巻の電子書籍は、生活や社会の中で、すぐに役立ちそうな実践的な内容が多い。それだけに生徒たちも、ここで獲得した能力や養った目を、日々の暮らしの中ですぐに役立てることができ、そこにも大きな価値があると思う。

 いずれのヒントも、読んでいると大人でも端から試したくなる内容が多いし、実際、インフォグラフィックスのレッスンは大人が学んでも、仕事の現場ですぐに役立てられそうだ。だからこそAppleはこの製品を「Students Can Create(生徒たちなら創れる)」ではなく「Everyone Can Create(誰でも創れる)」にしたのだろう。

 最近、社会人を対象に、硬直化した発想を解き放ちクリエイティビティを養うための書籍や美術教室といったものが増え、人気を博しているが、「Everyone Can Create」なら、好きなときに好きな場所で、なおかつ無料で新たな能力と新たな目を養うことができる。

 もしかしたら、他にはないクリエイティブな視点で仕事を発展させるアイデアも、ここから生まれてくるかもしれない。まずは、どんな内容か下記のリンクからダウンロードして読んでみてほしい。

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