新デバイスが「売れている」「売れていない」の情報は何を信じればいい?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
全く同じ製品でありながら、ある方面からは「売れている」という情報が、また別の方面からは「売れていない」という情報が出てくることはよくある。今回はそうした情報の出どころをチェックすることで、それらの真贋を見抜くコツについてみていこう。
販売店やメーカーが言う「売れている」は信頼性は低い
つまり、特定の製品が売れている、売れていない、というニュースが報じられた場合、それがどのようなソースからもたらされたかで、信頼性が判断できる、ということになる。
一般的に、情報の出どころが販売店であれば「売れている」というのは、数量ベースでは確かに多くの数が流れているものの、メーカーから見た場合、売れているうちに入らない可能性がある。つまり信頼性はあまり高くない。
逆に販売店が「売れていない」と言う場合は、実際に顧客の手に渡っていないわけで、メーカーから見ても「売れていない」可能性が高い。つまり販売店の「売れている」というコメントは信頼性が低く、「売れていない」というコメントは信頼性が高い、というわけだ。
ではメーカーの場合はどうだろうか。メーカーは、たとえ販売不振であっても、それを公言してしまっては、ただでさえ売れてないものがさらに売れなくなってしまうので、「売れていない」などと公言すること自体があり得ない。
また同じ理由で、メーカーの責任者や広報が「売れている」と胸を張って答えても、具体性が伴わない場合、虚勢を張っているだけの可能性があるので、こちらもやはり信頼性は低い。たとえ「生産が追い付かない」などとコメントが出てきても、それは単に生産計画を見誤っていて、ラインが確保できていなかっただけの可能性もあるからだ。
つまりメーカー発のコメントは、「売れている」も「売れていない」も、どちらにしても信頼性は低いということになる。例外として挙げられるのは、株主に対して情報を開示するケースくらいだろう。
サプライヤーやライバル企業発の情報は信頼性が高い
こうした販売店やメーカー発の情報に比べて、むしろ信頼性が高いのは、メーカーの下請けに当たるサプライヤーのコメントだろう。
中でも「売れていない」という情報は、生産ラインが余っていることを外部にアピールして、別の案件を引き込むことを狙って行われるケースもあるため、信頼性は比較的高い。サプライヤーにとって、減産によって空いたラインを1日でも早く稼働させないと、死活問題だからだ。
逆にサプライヤー発の「売れている」は、信頼性が高いケースも低いケースもあり、非常に判断しにくい。発注元であるメーカーに対しての「頑張っています」というアピールだったり、そのサプライヤーの株主に対する業績好調アピールだったりする可能性もあるからだ。
こうしたサプライヤー発の情報は、リークする人間がサプライヤーの内部にいることが前提だが、万一それらが表に出てきたときは、ある程度裏付けがあることが多い。ITデバイスまわりの業界は自社工場を持たず、外部のサプライヤーが生産を請け負っているケースが多いので、こうしたケースは構造的に起こりやすい。
サプライヤーと並んでもう一つ、信頼性が高いルートとして挙げられるのは、当該メーカーのライバルとなる競合他社だ。こうした競合他社には、前述のサプライヤーや、それらと取引のある関連企業から、さまざまな情報がもたらされる。そこで「A社さんの下請け先、減産でラインが余ってるらしいですよ」などといった情報がもたらされる。
中には同じサプライヤーを使っている場合もあるので、ライバルが増産に励んでいるのかその逆なのかといった情報は、特に探りを入れなくても、向こうから勝手に飛び込んでくることもある。一般に報じられるより前に、業界内で周知の事実となっていることもしばしばだ。
余談だが、こうした裏情報がジャーナリストなどに流れ、ニュースになる段階では、ライバルメーカーが情報源であるというソースは秘匿されることがほとんどだ。あるときは「業界関係者」に化け、あるいはジャーナリストが独自につかんだ情報として、ソースを明記せずに報じられる。
もちろんこうした情報の中には、ガセだったり、単なる勘違いだったりと、事実と異なるものも多い。とはいえ、少なくともどのような情報ソースからもたらされたものかを見る癖を付けておけば、不確実な情報がそのままニュースとして独り歩きする昨今、少しでも真贋に近づき、自身で製品を選ぶ上で役立つだろう。
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