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コラム

WWDCで鮮明になった「Apple=安心ブランド」という戦略「安心」を土台にデジタル技術の未来を再構築(3/5 ページ)

tvOS、watchOS、iOS、macOSに加え、第5のOSとしてiPadOSも発表されたAppleの開発者イベント「WWDC 2019」。5つのOSに共通する開発姿勢を見ると、今、世界で起きている新しいデジタルの潮流とピタリと符合をしていることが鮮明になってきた。Appleの今だけでなく、世界のテクノロジー業界全体が迎えている変化についても見ていこう。

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外出先でも家でも、Appleなら安心

 WWDC 2019でAppleが発表したユーザーのプライシー保護技術は、これだけではない。ユーザーの位置情報や家に置かれたデジタル機器を守る技術も合わせて発表していた。

 位置情報については、アプリが「今回1回だけ位置情報を参照することを許可する」というオプションが用意され、それを選ぶとアプリがあなたの位置情報を調べようとする際、その都度、許可を求めてくるようになる。

 中にはナビアプリなど、常に位置情報を許可しておいた方が楽なアプリもある。ただ、そうしたアプリがあなたの意図しない知らないところで位置情報を調べると、後でそのことを通知し、どの場所にいた時にあなたの位置情報が見られていたかの記録が一覧できるようになる。

 なお、そこまでするかと思うかもしれないが、あなたが位置情報を伏せていてるつもりでも、GPSを使わず周囲にあるWi-Fiネットワークなどとの位置関係を調べて、あなたがどこにいるかを特定しようとするアプリやサービスもある。この秋以降に登場するAppleの新OS(iOS、iPadOS、macOSなど)では、そうしたこともできなくなる。

 これまでのIT業界の悪い因習に徹底抗戦して、あなたを守るAppleのかたくなな姿勢が見て取れる。

Wi-Fi
ユーザーのプライシー保護技術の一環で追加されたオプション

 WWDCが終わった後、いくつかシリコンバレーのベンチャー企業を回ったが、街中での人の流れなどを調べてマーケティングデータを集めているある会社では、ここ数年のAppleの取り組みによって、数年前からは人の流れの量は計測できても、個人を特定することは難しくなってしまいサービスの内容を大幅に変える必要が出てきた、と漏らしていた。どうやら、Appleの取り組みは本当に功を奏しているようだ。

 一方、Appleは、本格的なIoT時代に備えて、その地盤づくりとして安心して使える家庭内ネットワークにも取り組み始めている。同社のIoT機器標準化技術「HomeKit」に関して2つ重要な発表が行われた。

Homekit
「HomeKit」でも重要な発表が行われた

 1つは監視カメラ(Webカメラ)の映像をのぞき見できなくする機能だ。

 一時、あるメーカー製の数百台もの監視カメラが、ほとんどパスワードも設定せず無防備に使われていることが話題になったのをご存知だろうか。そのリンク一覧が出回ったことで、オフィスの窓に設置した監視カメラや泥棒よけに玄関に設置したカメラ、赤ちゃんの様子を見るために設置した寝室のカメラなど、世界中の何百というカメラがのぞき放題になっていた。

 赤ちゃんやペットの様子を確認したり、家の安全を確認したりとWebカメラには便利な側面もあるが、その後も侵入によるのぞき見は大きな問題となり続けている。

 そこでAppleはHomeKit規格として、新たなWebカメラの標準を設定した。万が一、カメラそのものがハックできたとしても、そこに記録されている映像がiCloudを通して暗号化され、カメラだけではなくiCloudもハックしないとのぞき見できないという技術を発表したのだ。そして、この規格に準じた「HomeKit対応」のマークを通して安全に利用できるWebカメラを保証することにした。

 同様に、家庭内ネットワークへの不審者の侵入経路となるルーターに対してもHomeKit規格を設定。まだ、そうした事件は大きな話題になったわけではないが、今後、家の中にスマートフォン操作が可能な録画機器やTV、空調、照明、水回りの製品、監視カメラ、環境センサー、洗濯機、冷蔵庫といった便利なスマート機器が増えていきそうだ。しかし、これまでのルーターでは、そうした機器が外部から侵入され勝手に操作されたり、データを収集されたりする危険がある。

 そうした侵入の可能性が一番大きいのは、先ほども触れたセキュリティカメラのような不用心な製品だ。家にそうした製品が1個でもあると、そこを入り口に外部から侵入されて、その機器を経路として次の機器、また次の機器と不正アクセスされる危険がある。

Homekit
HomeKit対応ルーターやWebカメラなら、安全な利用が可能になる

 そこでHomeKit対応ルーターでは機器同士の通信にiCloudの暗号化技術などを使って制限をかける仕様になっている。機器同士が直接通信できなくても、Apple製品を通して連携できれば良い、という考え方だ。

 ちょっと残念なのは、今回、WWDCで発表したHomeKit対応の監視カメラメーカーにも、ルーターのメーカーの中にも日本のメーカーの名前がなかったことだ。

 日本メーカーは独自にセキュリティカメラを提供していく姿勢のところが多い。だが、そうでなくても分かりにくいのがセキュリティの世界だ。利用者にとっては“分かりやすい安全”も重要ではないだろうか。

 この辺り、メーカー側も、光ファイバーなどのインターネット接続サービスを提供する事業者も、この機会に真剣に議論をして考えてもらいたい。

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